2016. 5月

 

熟読しよう!自民党の「憲法改正草案」の問題点

 現行の「日本国憲法」前文と、自民党の「憲法改正草案」前文の、どこが違っているか?比べるところから始めよう。


憲法前文(抜粋) 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し(略)、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し(略)、われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去し(略)、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

改正案前文(抜粋) 日本国は(略)、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって(略)、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守り(略)、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

 上記は、文字数を、ほぼ同じくするために、(かなり私の主観でつないだ部分はあるが)、それでも明らかに、違いがわかるだろう。現憲法の冒頭は「日本国民は」と、国民が主語になっているが、改正案では「日本国は」と、国が主語に書き換えられており、しかも国は「天皇を戴く国家」なのである。
 さらに現憲法では「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないように」と警鐘を鳴らしているのに、改正案では「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するために」と、きれいごとに終始している。

 安倍晋三首相は、現行憲法は1945年の敗戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって押しつけられたみっともない憲法だと公言している。改正案の「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って」の美辞麗句は、自民党「草案Q&A集」を開くと、「和の精神は、聖徳太子以来の我が国の徳性であって……」との解説つきだ。なんで、いまごろ聖徳太子?と言いたくもなるが、私がここでムッ!となるのは、「家族や社会全体が互いに助け合って」の文言だ。
 現在、最も深刻な、ひとり親家庭と子どもの貧困、働く女性と待機児童、若者の就労とブラック企業、「障害者差別解消法」の不備、高齢者福祉費の削減他の深刻な社会問題を、「社会全体で助け合え!」といわんばかりの、現政権の改憲案だ。

 次に、(この「改憲案」は問題が多すぎるので)、「婚姻」と「家族」に絞って疑問を提起しよう。
 現行の憲法24条@が、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と謳っているのに対し、改憲案は、「婚姻は、両性の合意に基いて成立し」と、のみの2文字が消えている。戦前の旧憲法下では、婚姻は家のためにするもので、家長や親の同意が必要な「家制度」の存続が目的だった。これが、現行憲法の「両性の合意のみに基いて成立」との規定で、第三者の意思によって決定されない「個の自由」が保障されたのである。

 自民党「Q&A集」は、のみをカットした理由について、「昨今、家族の絆が薄くなっていることに鑑みて」としているが、その裏には、働く女性にとっての社会的問題である待機児童問題を、三世代家族による養育責任に転化しようという策略がみえみえだ。
 石井啓一国土交通大臣によると、「安倍総理から一億総活躍社会の“希望出生率1.8人の実現”を目指し、三世代家族同居で“育児”を支えあう住居政策を検討実施するよう指示があった」とか。そこで打ち出されたのが、国土交通省による三世代同居援助の住宅施策だ。具体的には、同居のための住宅の新築・購入・増築に対する助成金制度である。

 安倍首相は、自著『新しい国へ』で、「お父さんとお母さんと子どもがいて、おじいちゃん、おばあちゃんも含めた家族―そういう家族が仲よく暮らすのが、いちばんの幸せ」と述べているとか。とんでもない!嫁と姑、高齢者と反抗期の子どもが一緒に暮らせば、対立するにきまっている。それを、ぐっと我慢して、子どもを祖父・祖母に預けて働きに出る若い母親の心痛は想像に余りある。さらに、同居していれば、いずれ祖父・祖母の介護のために、長年努力してキャリアを積んだ職場を辞めざるをえない日もくるだろう。そのストレスを夫にぶつければ、夫婦の仲もこじれ、遂にはDVに発展。DVを日常的に見て育った子どもの脳の視覚野は、そうでない子どもと比べ、20.5%萎縮しているという研究結果まで発表されている※。
 女たちよ、「家族」幻想にまどわされるな。現行憲法24条は、「(婚姻は)個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない!」と謳っているのだから。

※ 2010年2月、熊本大大学院の友田明美准教授と米国ハーバード大の研究チームによる発表。

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