2016. 6月
オバマ大統領の来日 3日間の記録 ―2016年5月25日〜27日― そのT
■来日直前に、ベトナム・ハノイで演説
8年ぶりに日本で開く、主要7ヵ国首脳会議(G7)が、三重県志摩市で開幕した(2016年5月26日)。
オバマ大統領は来日直前の24日、ベトナム・ハノイで、同国民に向け演説。ベトナム戦争を「冷戦構造と共産主義の脅威から始まった」とし、この戦争で犠牲になった約300万人のベトナムの兵士や市民、約5万7000人の米兵を追悼しつつ、「戦争は、どんな意途があろうとも、苦しみや悲劇をもたらすということを、我々は学んだ」と総括した。
ベトナム戦争中に米空軍が散布した“枯れ葉剤”に含まれるダイオキシンの影響で、いまも障害を抱える被害者が多数いる問題について、大統領は「土壌の除染支援を続ける」との言及はしたが、被害者への謝罪はなかった。
私は1998年、かつて南北に分断されたベトナムの17度線直下のホンバック村を取材し、写真絵本を出版した(文/北沢杏子、写真/高岩 震、アーニ出版刊)。
取材を受けてくれたホーさん(74)とニオさん(64)夫妻は、1965年2月、米国空軍北爆の枯葉剤散布によって、長男(当時5)の吐血と死、長女(当時3)の進行性脳障害と身体障害の被害を受けたと、涙ながらに語った。村には多数の「先天性障害児(小頭症、多指症、下肢欠損症、脳性麻痺児)が生まれた」とも。こうした被害についても、ヒロシマ、ナガサキの原爆投下による市民の被爆(推定死者数、広島市14万人、長崎市7万人)についても、現大統領の立場としては“謝罪”できないのだろうか?
■「沖縄事件」で安倍首相が抗議
オバマ大統領は翌25日夜、三重県のサミット会場で安倍首相と1時間弱にわたる会談、そのあと50分に及ぶ記者会見に臨んだ。両首脳の、この会談は、安倍晋三氏にとって「日米同盟」の深化を示す絶好の機会となるはずだった。だが、直前に起きた米軍属による女性死体遺棄事件は、日米同盟が、米軍専用基地の7割以上が集中する沖縄の犠牲の上に成り立っているという現実を、日米両政府に突きつけたのだった。
記者会見で安倍氏は、「オバマ大統領に、日本の首相として断固抗議した」と述べ、オバマ氏は「心の底から哀悼と遺憾の意を伝えた。米国は、日本の司法制度のもとでの捜査に全面的に協力する」と語った。
この両首脳の会見を聞いた沖縄県の翁長知事は、「“日米地位協定”の見直しに言及しなかったのは残念だ」と述べ、政府が、これまでもたびたび約束してきた「再発防止と綱紀粛正」対策について、沖縄の方言で「話くわっちー(口先だけの話)」と弾劾。「米国と共に実行性ある対策に取り組むべきだ」と語った。
それにしても、ベトナムのホーチミン市を飛び立って、はるばる伊勢志摩へ。即、安倍首相と1時間の会談後、50分間もの記者会見を終えて握手するオバマ大統領―写真の下の文字には、夜中の11時32分とある。
明日は「伊勢志摩サミット」開幕である。(次号へつづく)