2016. 7月
オバマ大統領の来日 3日間の記録 ―2016年5月25日〜27日― そのU
■伊勢志摩サミットで安倍首相、世界経済の「危機対応」を求めたが……
主要7ヵ国首脳会議(G7)は、翌5月26日、開幕。議長の安倍首相は冒頭、「リーマン・ショックの2ヵ月前に開いた北海道・洞爺湖サミット(2008年)の際も、現在を上回る状況が予測されていたのに、世界経済の危機を予見できなかった」と発言。「その轍を踏みたくない」と訴えた。ところが、「“危機”とまで言うのは、いかがなものか」と異議を唱えたのは、ドイツのメルケル首相。危機直前という認識に同意したG7首脳は一人もいなかった。
結果、翌27日、「各国の置かれた状況を踏まえつつ」「金融緩和、財政出動、構造改革に取り組む」との、あいまいな表現の安倍議長の宣言文のうちに閉幕した。
さあ、いよいよ全世界が注目しているオバマ大統領の「広島訪問」に移ろう、と言いたいところだが、その前段として、4月10日〜11日(2016年)、主要7ヵ国(G7)広島外相会合について知っておく必要があるので、遡って記述したい。
■G7外相、一致して「核軍縮・不拡散」をアピール
G7広島外相会合は4月11日に閉幕。被爆地から「核兵器のない世界」を目指す「広島宣言」や、テロ、難民問題などに連携して対応する共同声明を採択した。その宣言文は、「広島及び長崎の人びとは、原爆投下による極めて甚大な壊滅と、非人間的な苦難を経験した」と、核兵器使用による被害の甚大さを指摘したものの、日本が主張してきた「核の非人道性」の表現は見送られたのだった。
ともあれ、核保有国米英仏を含む各国外相が、平和記念公園を訪れ、「核軍縮・不拡散」に一致して取り組む姿勢をアピールしたのは、原爆投下から71年後の、この時が初めて。
なかでもケリー国務長官は記者会見で、「すべての人が広島を訪れるべきだ」と語り、オバマ大統領が伊勢志摩サミットにあわせて、広島を訪問することに前向きな姿勢を示した。
■ケリー氏、オバマ大統領・広島訪問の是非について、米国世論の反応を推察か?
同日午前11時、ケリー氏は岸田外相らG7外相と共に、「原爆資料館」を参観し、芳名録に「世界のすべての人が記念館の力強さを見て、感じるべきだ」と記載。そのあと、原爆死没者慰霊碑に献花。さらに自ら提案して、「原爆ドーム」近くまで足を延ばし、岸田外相の説明を聞いた。そして、「帰国して週内にオバマ大統領と会い、ここで見たこと、そして(オバマ氏が)訪問することが、いかに重要かを確実に伝える」と強調した。が、同行した米政府高官からは、「オバマ氏が訪問すれば、共和党などから“謝罪した”と批判される恐れがある」と心配する声もあがった、とか。
米国の世論調査では、「原爆投下は正しかった。あのまま日本本土上陸作戦となっていたら、100万人の米国人の命が失われただろう」という「神話」が、現在も56%を占めており、この考え方が主流なのである。とすると、ケリー国務長官の原爆資料館の見学、慰霊碑への献花、原爆ドームに接近などは、こうした米国の世論にどう影響するかを、あらかじめ推察するためだったのでは?と勘繰りたくもなるのである。
■オバマ大統領が、広島訪問を決断するまで―
オバマ大統領が広島訪問を決断したのは、5月5日(2016年)だった。小雨がぱらつくこの日、オバマ氏はいつもの通り、ホワイトハウス執務室で政府幹部から、重要案件について報告を受けながら、広島ゆきを決意し、側近にその考えを伝えた。日時は、伊勢志摩サミット閉幕後の5月27日午後―が希望だった。
こうして、原爆投下から71年、現職の米大統領として初めて広島を訪れる、歴史的瞬間が決定したのだった。(次号へつづく)