2016. 12月
「軍」「産」「官」「学」連携―科学者と戦争―
■過去の戦争の反省から「軍事研究禁止」の三原則
日本学術会議は、科学者が過去の戦争に(研究の分野で)加担してきたことの反省から、「@軍事研究に従事しない A外国の軍隊の研究は行わない B軍の援助は受けない」の三原則を、1951年、54年、59年と、声明し続けてきた。
ところが1966年、日本物理学会が開催した「半導体国際会議」で、多くの大学や研究機関が、米陸軍極東研究開発局の資金援助を受けていたことが判明。資金援助を受けていたのは、東大や京大など14の国立大学42件、公立大学13件、私立大学18件、民間の研究所10件他であった。この報道により、国会で問題となり、日本学術会議内でも激論が交わされた。
■「軍学共同」政策が発足
話は飛んで2015年、「武器禁輸」の原則を緩めて武器輸出を進める安倍政権の動きを受け、防衛省が大学や国の研究機関に向け、「安全保障技術研究推進制度」という名の研究費の公募を開始、109件の応募があり、19件が採択された。
この件に関し、10月7日(2016年)に開かれた日本学術会議総会で研究者らは、「防衛省の研究費を受容すれば、日本の科学研究全体が、海外からは軍事研究とみなされる恐れがある」とする反対派と、「もとは軍事研究だったITが、社会に大きな便益を与えてきたという公益性があるではないか」とする賛成派に分裂した。
■防衛省が研究交付金を公表
こうした意見の背景には、自由な研究に使える国の運営交付金の削減がある。そこで防衛省は、「2016年度から、大学や国の研究機関に、1件あたり3,000万円を3年間支給する。装置購入などに費用がかかる基礎研究には、1件あたり5年間で数億円から数十億円を投資する」と公表した。
ただし、この投資の条件は @兵器に活用できる研究が対象、A成果の公開は“軍事機密”になる可能性があり、B研究者が研究成果の公開を希望しても「特定秘密保護法」に当れば、国際的学術研究発表も不可―という拘束性むきだしの交付金だったのである。とはいっても、研究を続けるためには、その資金がないと継続できなくなる状況が生じる。故に、(投資を受け続け)結果的に軍事協力の役割を果たすことになり、「研究者らは健全な研究の意識を失っていくのではないか?」との懸念の声もあがった。
■「軍」「産」「官」「学」連携の日本!
だが、科学者の中では、いまや「そんな感傷的なことを言っている場合ではない」との声が圧倒的だった。「学」(研究者)は開発したITや人工知能を使った新技術を「軍」に売り込み、軍は次々と資金を提供、「産」(産業)はそれを製品化(兵器)して軍に売り込み、あるいは輸出し、民生品に転用して、大もうけをすればいいではないか、と。
その結果、軍産学の連携が強まり、互いの利益を享受しあっているのが現状だ。そればかりか、武器輸出はもとより、原発の売り込み他に前のめりの「官」(現政権)のあり方を見れば、いまや「軍」「産」「官」「学」連携の日本!と言わざるを得ない状況に舵が切られているのである。
■奨学金をちらつかせる経済的徴兵制―
現在、報道を賑わしているのが、「子どもの貧困」である。そこで防衛省が打ち出したのが、自衛隊入隊を前提にした奨学金制度だ。この制度は、防衛省が、理系の大学生を対象に月額54,000円を貸与し、卒業後に一定期間、自衛官として勤務すれば返済を免除する制度で、安倍政権は「試行的に」と断わった上で、同制度採用枠を拡大する予算を、すでに2015年から計上している。
防衛省の「国防を担う優秀な人材を確保するための検討委員会」の内部文書によると、この制度は米軍のROTC(予備役将校訓練課題)を参考にしたもので、国内の大学に設けた“幹部養成講座”を受講すれば、卒業まで、学費や生活費の支給が保障される一方、@部隊訓練への参加、A軍事に関する講義の受講、B卒業後の一定期間の軍務が義務づけられる。
「子どもの貧困」が社会問題になっている現在、経済的理由から大学進学を諦める高校生たちは、この制度に飛びつくだろう。本稿の資料のひとつ、『科学技術と戦争』の著者池内了氏は“おわりに”で、軍産学協同への批判として、こう述べている。「戦争を批判するのに役立たない教養なら、紙くず同然だ。戦争こそ人間を破壊する最大の元凶であり、いかに言い訳をしようとも、戦争を許容する教養はありえない」「軍学共同を通じて戦争に協力する科学者は、真の教養を学んでいないことを意味する」と。