2017. 4月
「道徳」教科書 強まる文科省関与
■小学校は2018年度から、中学校は19年度から「道徳」が教科に
文部科学省は3月24日(2017年)、小学校で使われる「特別の教科 道徳」の教科書の検定結果を公表した。道徳は、これまで「教科外の活動」という位置づけで、副読本はあったものの、教科書はなかった。だが、いよいよ、小学校では2018年度から、中学校では19年度から、国語や算数などと同じ「教科」に、格上げとなる。
そこで、教科書出版8社は“学習指導要領”に従った「道徳」の教科書作りに必死になった。学習内容の主な項目は、「正直・誠実」「節度・節制」「規則の尊重」「家族愛・家庭生活の充実」「伝統と文化の尊重」「国や郷土を愛する態度」他、全22項目となっているため、執筆者、編集者とも、検定にパスするよう、それに合わせて懸命に教科書を制作した。
■文科省が指摘した244件の意見書に従い、修正した例を見てみよう
こうして教科書出版8社が提出した全24点(66冊)に対し、文科省は「学習指導要領の示す内容に照らして不適切」との244件の検定意見を突きつけた。出版社側は慌てて修正し、なんとか合格!その修正した例を見ると、
例1.修正前のパン屋のおじさんは、パン屋のおじいさんに修正させられた。検定意見は「感謝」の扱いが不適切―えっ、なぜ!?と目を凝らすと、小学校3・4年生の指導要領には「家族など生活を支えてくれている人々や、現在の生活を築いてくれた高齢者に尊敬と感謝の気持ちをもって接すること」とあるため、おじさんでなくおじいさんでなければならないわけだ。
この教科書は更に修正を迫られ、「パン屋」ではなく「和菓子屋」にイラストを変更し、やっと認可されたとか。理由は指導要領に「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつこと」とあるからだ。
例2.「大すき、わたしの町」のタイトルで、アスレチックの遊具で遊ぶ公園が修正を指摘され、和楽器を売る店に差し替えて認可された。
理由は、例1.と同じく「我が国の文化と生活に親しみ、愛着をもつ」子どもを育成するため―というのだから、これも驚きだ。小学校1年生に、(我が国の文化だから)ふだん馴染みのない「和楽器に愛着をもて」と誘導するとは!
■指導要領の「問題解決」のできる子に―とは?
文科省の教師向け指導要領に、「問題解決的な学習法について、適切な配慮をする」とあるため、出版社の多くは“教師が指導しやすいように”と、読み物の冒頭や末尾に「設問」を入れた。そんな中、1社だけが、あえて設問を入れなかった。その理由について編集者は、「指導の自主性を尊重したから」と述べたが、結果的にクレームがつき、設問を挿入することで検定に通ったという。
文科省お仕着せの設問を、あらかじめ教科書に示すなんて、子どもの自由な発想を萎縮させ、教師の自主性を拘束する結果になることは見え見えだ。これが、文科省の提唱する「考える道徳」の教科書だというのだから、驚かされる。
2014年度に導入された新検定基準以降、安倍政権の進め方が、教育全般に強調される傾向が強まっている。
中学校教科書には、「(領土問題など)政府見解がある場合は、それに基づいた記述をすること」「近現代史では、通説的な見解がない数字(南京大虐殺の犠牲者数)などは、そのことを明示せよ」との指示に従わない限り、検定で不採用となる。
更につけ加えると、小学校「道徳」の22の内容項目のひとつに「国を愛する態度」がある。過去の、戦争に駈り立てた時代の愛国心の復活につながらないかと危惧の念を抱くのは、私だけではあるまい。