2017. 6月
どうなる?2020年の「たばこの煙のないオリンピック」!
■受動喫煙による健康被害を受ける場所は―飲食店、遊戯場、職場、路上の順
自分が吸わなくても、他人が吸うたばこの煙の害―受動喫煙により、肺がん、心疾患、乳幼児突然死症候群※1他で「(日本では)年間15,000人が死亡している」と、厚労省研究班は発表している。
厚労省の「国民健康・栄養調査」報告によると、非喫煙者が受動喫煙にさらされる機会は、飲食店、パチンコなどの遊戯場、職場、路上の順に多いという。中でも、「えっ、ほんとに!」と驚かされる「路上の受動喫煙」という指摘は最近の情報だ。私は毎週末に1回、1週間分の朝食用パンを専門店に買いに行くのだが、その店はレストランも兼ねているため、家族連れの喫煙者(殆ど父親)たちは、注文の品がテーブルに届くまでの間、店外の路上で吸っている。その煙の中をくぐってパンを購入する私は、毎週、受動喫煙の害にさらされているわけで、本稿を読んだ方は、知らない人びとに伝えて欲しい。
■受動喫煙対策―厚労相、自民政調会長の協議、物別れ
次に驚かされたのは、いま本稿を書いている5月26日(2017年)、すでに2月末に国会に提出された受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を巡り、塩崎恭久厚生労働相と、自民党茂木敏充政調会長が会談。法案作成に向けて協議したが、主張が折り合わず、物別れに終わったという報道(5月25日 毎日新聞)である。
茂木氏は、“一定面積以下の飲食店でも表示すれば、喫煙を認める自民党案”を主張。塩崎氏は延べ床面積30平方メートル以下のバーやスナック以外はすべて屋内禁煙(喫煙室を別に設置可)とする厚労省案を主張し物別れとなった、とある。
国会の会期末は6月18日と迫っており、自民党のたばこ議員連盟は、「今国会への提出は厳しい状況だ。あとは官邸の判断しかない」と言い切ったとか。なにやら、森友学園、加計学園と同様に安倍政権への忖度に終りそうな予感がする。
■自民党たばこ議員連盟―議員280名の1強集団
さらに驚かされたのは、たばこ議員連盟には自民党の衆参議員280人が名を連ねており、これに対して「東京オリンピック・パラリンピックに向けての議員連盟」「受動喫煙防止議員連盟」があるものの、たばこ議員連盟の圧倒的な数の前に、多勢に無勢で勝負にならないという。
受動喫煙防止で一番の焦点になっているのが、飲食店の規則だ。厚労省案は、前述のように床面積30平方メートル以下の小規模のバー、スナックをのぞき、原則・屋内禁煙とした上で喫煙室の設置を認めるとした案を、今国会に法案を提出し、ラグビーワールドカップ(2019年9月)までに施行して、翌2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、「たばこのないオリンピック」を実現したい方針だ。
これに対し、たばこ議員連盟は、「喫煙室設置が不可能な小規模飲食店もある」「屋内禁煙で客が来なくなり、経営不振、失業者が出る」と主張。厚労省の『建物内全面禁煙』に対し、「喫煙を愉しむこと」と、「受動喫煙を受けたくないこと」を、共に国民の権利として同列に論ずべきだとの、不当な「人権論」を打ち出している。
■世界保健機関(WHO)のたばこ規制条約※2―日本も批准しているのに!
上記の条約は2003年5月にジュネーブで開催されたWHO第56回総会で採択され、2005年2月発効。現在、日本も含む世界180ヵ国が批准している。
批准国は“受動喫煙削減”に向けて、広告および販売の規制、密輸対策、健康被害対策に努めなければならないとされている。なのに日本は、輸出用メビウスの箱表面に、WHO指定「たばこ規制枠組条約」の警告写真を出しているにもかかわらず、国内販売の同じたばこには、小さな警告文のみという、WHOの言う「世界最低のレベル」規則違反を続けているのである。
WHOと国際オリンピック委員会(IOC)が合意した「たばこのないオリンピック」に関しても、中国・北京(2008年)、カナダ・バンクーバー(2010年)、英国・ロンドン(2012年)、ロシア・ソチ(2014年)、ブラジル・リオデジャネイロ(2016年)の開催国は、いずれも罰則を伴う法規制を設け「たばこのない五輪」を実施してきた。
さて、2020年の日本・東京オリンピック・パラリンピックはどうなる?WHOから再度、「世界最低レベルの日本」と言われても、280人のたばこ議員を擁する自民党政権は、「喫煙を愉しむ権利」を主張するのだろうか?
※1 肺がん罹患率リスク1.3倍、乳幼児突然死症候群率4.7倍となっている(WHO 2015年調査)
※2 たばこの規制に関する世界保健機関枠組み条約(FCTC)