2017. 8月

「性犯罪の厳罰化」
110年前(明治40年)に制定されたまま、なぜ今日まで改正されなかったのか?

―そのT


■刑法「性犯罪」改正・施行までの道のり―

 日本弁護士連合会・両性の平等に関する委員会は、「性犯罪」規定について、改正すべき下記の問題点を指摘してきた。
@ 強姦罪の客体(対象)を女子に限定している。
A 被害者が13歳以上の場合、暴行・脅迫がなければ「強姦罪」とならない。
B 強姦罪の実行行為を「姦淫(性交)」に限定している。
C 夫婦間には強姦罪は成立しないとしている。
D 被害者の年齢・職業・性体験の有無を、捜査・公判の過程で事実認定の資料としている。
E 捜査、公判の過程で、被害者のプライバシーが侵害されている。
F 親告罪※1規定が、加害者に有利になっている。
G 時効制限※2(6ヵ月は短期すぎて)が、年少者の被害について弊害が多い。

 これに対し2017年6月1日、衆議院運営委員会は、「性犯罪」改正案について、6月2日の本会議で、金田勝年法相による趣旨説明と質疑を行い、審議入りすることを決定。
 以下は、当日の、日本共産党 池内さおり議員による、思わず喝采したくなる質問である。

■2017年6月2日、第193回国会衆院本会議での質疑応答
池内さおり議員
 「性暴力は魂の殺人と言われています。被害者の心身、生活全般に長期の深刻な打撃を与え、PTSDをも発症させます。しかし、被害申告できる人はごく僅かで、異性から無理やり性交された経験のある女性のうち、警察への相談は4%にすぎません※3。被害者数は、実に推計年間16万人に上りながら、警察に届けられるのは数%。検挙、起訴されて有罪が言い渡される加害者は500人にとどまっています」。
 「現行刑法は、110年前(明治40年)、家父長制のもとで、女性が無能力者とされていた時代に制定されました。強姦罪の保護法益は、性的秩序の維持・貞操の保護でした。この規定は今日まで抜本的改正がないまま運用されてきました。
 最も権威ある「注釈刑法※4」は、“些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操の如きは、本条によつて保護されるに値しない”としていました。こうした考え方が今日でも、司法、捜査当局に大きな影響を与えているのではありませんか。今回の改正に当たり、保護法益を性的自由にとどめず、心身の完全性、人間の尊厳、人格そのものを脅かす性的暴行からの保護であると、抜本的に改めるべきではないですか」。
 「国連は、女性に対する暴力を定義し、性に基づく一切の暴力を根絶する姿勢を明確にしました。世界各国は、ジェンダーバイアス(性差別に基づく偏見)を取り除き、真に被害者の視点に立っての法改正を、この30年間積み重ねてきたのです。わが国は、国連諸機関から、構成要件の見直し、夫婦間強姦規定の明示※5、13歳以上とされている性交同意年齢の引き上げ等の勧告を繰り返し受けてきました。どのように受けとめ、実現するつもりですか」。
 「被害を訴え出るまでには長い時間を要します。公訴時効(6ヵ月)の撤廃、未成年が成人するまで時効を停止するなど、欧米諸国や韓国並みの制度にするべきではありませんか。ワンストップ支援センター※6を、国連が求める20万人に1ヵ所設置することは急務です」。
 「加害者への適正な処罰、刑務所内外での更生プログラムの制度化、警察、検察、裁判官へのジェンダー教育の抜本的強化を求めます。個人の尊厳は、あらゆる(LGBTを含む)セクシュアリティーを生きる人々に保障されなければならない。今回の改正を第一歩に、さらなる改正を求め、質問を終わります」。

 これに対し、金田勝年国務大臣の答弁は、次のようにありきたりで、あたりさわりのない内容、あるいは、明らかに男性特有の価値観による発言となっている。


金田勝年国務大臣 「性犯罪は特に被害が潜在化しやすい犯罪であると認識をしております。性犯罪の加害者に対し適正な刑事処分を行うことは重要であり、被害者のプライバシーの保護や心情への配慮を徹底することなどを含め、被害が潜在化しないよう取り組みを進めることが重要であると考えております」。      つづく

 

※1:被害者が自分で訴えなければ、起訴されない。
 ※2:一定の期間が過ぎると、法の効力がなくなること。
※3:2014年 内閣府調査
※4: 1965年版     
※5:夫婦間の強姦は、刑罰として認められなかった。
※6:一カ所で必要な支援を提供する所のこと。主として、性犯罪・性暴力の被害者の支援を行う。

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