2017. 9月
「性犯罪の厳罰化」
110年前(明治40年)に制定されたまま、なぜ今日まで改正されなかったのか?―そのU
■2017年6月2日、第193回国会衆院本会議での質疑応答〜先月からの続き
金田勝年国務大臣 「検察当局は、事件の処理に際しましては、所要の捜査を遂げた上、法と証拠に基づいて適正に対処しているものと承知をいたしております」。
「強姦罪等の性犯罪の保護法益については、現在、性的自由または性的自己決定権と解されており、刑事事件の実務も、そのような解釈に基づいて運用されており、保護法益に関するかつて(110年前)の考え方が強姦罪の解釈に影響しているものではないと認識をいたしており、現時点で、強姦罪等の条文の位置を変更する必要はないものと考えております」。
まだまだ続く的外れの答弁だが、110年前に制定された強姦罪、姦通罪の保護法益について、雪田樹理弁護士の資料※をもとに、更に追及したい。
■「強姦罪」(刑期3年)は「強盗罪」(刑期5年)よりも軽い刑罰だった!
雪田樹理弁護士 現在の性犯罪の規定は、1907年、明治時代に作られたものです。明治民法のもとでは男系世襲制がとられており、女性はイエ(家系)を維持するための子を産むための道具とされ、夫以外の男性と関係を持った場合には「姦通罪」で処罰されていました。
そして、「強姦罪」は、家父長制を守るため、妻が夫以外の男性の子どもを妊娠する可能性があることから、「性的秩序」という社会的法益を守るために、犯罪とされていたのです。
女性には強い貞操義務が課され、「男の暴行や脅迫にたやすく屈するような女性は保護するに値しない」とされました。つまり暴行・脅迫をもって姦淫された場合のみ、強姦罪が成立するとされてきたのです。
1946年に日本国憲法が制定されて男女平等となり、姦通罪は廃止されましたが、強姦罪規定の要件、「暴行又は脅迫」はそのまま残り、「抵抗を著しく困難にする」暴行・脅迫があったと認められる場合にのみ、強姦罪が成立するとされてきました。
しかし、強い抵抗をすることが困難であることが、性暴力被害の現実です。突然の性暴力によって心理的な麻痺状態となり、“殺されるかも”といった恐怖心から抵抗できなかったり、また、顔見知りからの被害の場合には、暴行や脅迫がなくとも、加害者の地位や、加害者との権力関係によって、逃れられないことが多い。特に(子どもに対する)近親姦の場合には、(子どもは)被害の認識すら持てないことも少なくないのです。
■刑法「性犯罪」改正案―衆参両院で可決・成立、施行へ
かくして2017年6月7日、刑法改正案は、衆院法務委員会で一部修正の上、全会一致で可決。2017年6月17日、参院本会議で、性的少数者LGBTなどへの配慮を求める付帯決議案を含め、全会一致で可決・成立。2017年6月23日公布、2017年7月13日より施行!となった。
■「改正法」施行、3年後の見直しについて、私たち一人ひとりが考え、声を上げよう!
改正法には、施行3年後の見直しが盛り込まれた。しかし、まだまだ取り残した課題は山積している。素人の私が考えただけでも、10〜20項目あるが、紙幅の都合で、とりあえず以下を挙げる。
@改正「強制性交等罪」(旧強姦罪)の条件に暴行又は脅迫の文言が残された。
A「監護者強制わいせつ罪」「監護者性交等罪」に、教師や部活指導者、会社の上司などの権力者が対象になっていない。
B「二次被害」の事情聴取の方法があいまい―警察、捜査、裁判官へのジェンダー教育が必要。
C裁判手続きの改善を徹底せよ。(非親告罪になったが、手続の具体的指示がない)。
D再犯を防ぐために、加害者更生プログラムの抜本的改正を具体的に示すこと。
E子どもが、自らのプライベートゾーンを、「人権」として守る性教育の充実―などである。
私たちは今後も、性犯罪刑法に対し、真摯に向きあい、声を上げ続けなければならない。
※:2015年2月1日「性犯罪の見直しに期待する」(http://www.josei-law.com/archives/blog/418/より)