2017. 11月
「臍帯血移植事件」を報告する!
■「臍帯血」悪用の業者および治療医逮捕!
2017年8月、新生児のへその緒や母親の胎盤に含まれる臍帯血による治療が、「再生医療安全確保法」が制定(2015年11月)されているにもかかわらず、無届けのまま他人に移植されていたとして、臍帯血保管業者(民間臍帯血バンク)および治療を実施した医師らが、再生医療安全確保法違反の疑いで逮捕された。
この事件を受け、厚生労働省は8月28日、同省のサイトに掲載してきた“再生医療提供の医療機関”の公表を一時停止し、掲載基準を見直す決定を行った。
■臍帯血とは?
胎児は、母親の胎盤から送られる胎盤血によって成長し、生まれてくる。臍帯血は、母親と胎児を結ぶ臍帯(へその緒)と胎盤の中に含まれている血液のことで、血液を作り出すもとになる「造血幹細胞」が多く、正常な血液を作る機能を失った白血病患者などに移植する治療が行われてきた。この治療は、有効性、安全性とも確立しており、高齢化で患者が増えている折から必要性が高まっている現状がある。
にもかかわらず、へその緒や胎盤は出産後に捨てられてしまうのが普通だ。そこで、指定された全国90ヵ所の病院で、出産する妊婦の同意を得た上で、健康上の問題がない場合、へその緒に針を刺して血液を採取。全国6ヵ所の公的バンクで凍結保存されるようになった。
■今回の事件で問題になった民間バンクや治療機関の医師とは?
将来、自分や自分の子どもが病気になったときなどに備えたいと希望する者の臍帯血を、有料で預るのが民間バンクだ。今回の事件は、そのバンクのひとつ「つくばブレーンズ」が破産し、保管されていた臍帯血千数百体が、同バンクの株主のひとりのもとに流出。臍帯血保管販売会社「ビービー」が設立された。
株式会社「ビービー」は、科学的な有効性や安全性が確立されていないにもかかわらず、臍帯血が、がんの治療やアンチエイジング(美容治療)にも効果があると宣伝。「ビービー」から販売された臍帯血は300〜400検体にのぼり、この臍帯血を使って治療を受けた患者は、30都道府県に広がった。移植は1回300〜400万円で、うち3〜5割は「ビービー」の収益になったとか。
治療を専門とする某クリニックは、ホームページで、臍帯血の移植をPR。「がんの痛みが軽減した」「細胞が10〜20歳若返るなど、アンチエイジングに効果的とされています」などと大宣伝。取材に応じた治療医によると、「2012年のオープンから約100人に計120回ほど、臍帯血の点滴と同時に、体内に入れる再生医療を実施した」「臍帯血は、1検体100〜150万円で購入し、治療費は1回240〜300万円程度で、合計2億円ほど売り上げた」とのこと。
患者側の移植の目的は、末期がん患者などが「ひょっとしたら治るかも」と期待してくる人が多かったという。治療医は「結局、亡くなった人はいたが、結果的に延命はしたと思う」と説明する無責任さだった。
被治療者は、アンチエイジングなどの目的でツアーを組んで来日する中国人が多く、治療後即帰国した旅行者も少なくなかったという。税抜き日本商品のバク買いの中国人の話はよく耳にするが、アンチエイジングのために300〜400万円を惜しげもなく使う人びとがいるとは、首を傾けざるを得ない。
■進化する再生医療への忠告
臍帯血は、現在、国の許可を得た公的バンクを通じて、白血病治療などに使われているが、更に、再生医療への応用が期待されている。脳性麻痺など、幹細胞が傷ついた神経細胞も再生させられるのではないか?と、臨床研究が進んでいるが、まだ検証段階だとか。日本再生医療学会の澤芳樹理事長は、「適切な手続を経ていない臍帯血移植は、健康被害の恐れもある。安易に、こうした治療を受けないように」と、注意を呼びかけている。