2017. 12月

「子どもの権利条約」違反の校則

―女子高生に「黒染め」強要、都立高校の「地毛証明書」提出―

■生まれつき茶髪の女子高生に「校則違反」で“黒染め”を強要
 大阪府立高校3年生の女子生徒が、生まれつき茶色い髪を「黒く染めるよう」教諭から何度も指導され、精神的な苦痛を受けたとして、「府に賠償を求める訴訟」を大阪地裁に起した―という報道※を読む。
 訴状によると、生徒の母親は2015年4月の入学時に、生徒の髪が生まれつき茶色いことを学校側に説明し、黒染めを強要しないよう求めた。しかし教諭らは、「染色や脱色を禁じる生徒心得」を理由に、黒く染めるよう指導。生徒は“黒染め”に応じていたが、色が茶色に戻る度に染め直すよう指示され、2年生になった翌年の9月、学校側は「黒染めが不十分」として授業への出席を禁止。翌10月の修学旅行への参加も認めず、以降、生徒は不登校が続いているという。
 地裁で、生徒側は、「“黒染め”で頭皮がかぶれ、髪がボロボロになるといった健康被害が生じた。身体的特徴であるにもかかわらず否定され、精神的苦痛を受けた」と訴えた。これに対し、大阪府教育庁は朝日新聞の取材に、「事実確認も含め、係争中なので答えられない」と答えている。

■東京都立高校の6割が「地毛証明書」提出を義務付け
 朝日新聞が調べたところ、東京都立高校の6割が、生まれつき髪が茶色っぽかったり、縮れていたりする生徒に対し、生まれつきであることを示す「地毛証明書」を、入学時に提出させていることが明らかになった。朝日新聞は社説で、「学校が若い世代に向け、何よりも伝え育むべきは、1人ひとりの個性を互いに尊重しあう意識だ。(略)生徒個人の尊厳を否定するルールを押し付けるのは本末転倒だ」と述べている。

■スウェーデンの高校と日本の高校の卒業アルバムを比較する
 ここに1冊の本がある。タイトルは『子どもの権利 中・高校生向』(日本評論社)その本の後半に、スウェーデン・マルメ市の公立高校で学んだ青木のぞみさんの手記が掲載されている。
 「私は1989年から90年にかけてマルメの公立高校で学びました。この高校のアルバムをめくると、まず3年生のクラス写真が目にとびこんできます。出席番号も男女も関係なく、思い思いのポーズをとっています。服装は、Tシャツ、古着のジャケット、トレーナー、タンクトップ、Gパンなど、あまりお金をかけないのに、みんな個性的です。3年生のクラスのつぎは、2年生、1年生とつづき、最後に先生や職員の写真がのっています。
 東京の高校のアルバムをみてみましょう。校舎と校庭、校長先生、「お世話になった先生方」の写真とつづき、最後に3年生の写真がでてくるのです。だれが主人公なのでしょう。みんな制服を着て、正面を向き、表情まで似ています。日本の中学校や高校では、服装、髪型、持ち物を統一して検査をしているところがたくさんあります。これは、子どもの権利条約第28条(教育への権利)および第16条(プライバシィ・通信・名誉の保護)に違反しているのではないでしょうか。なぜ、みんなとおなじ服装、おなじ髪型にしなくてはならないのでしょうか」。

■学校側および府教育庁は「子どもの権利条約」を読んでいないのか?
 国連の「子どもの権利条約」は、1989年11月20日採択、現在、締約国・地域の数は196となっているが、日本は1994年4月22日に批准。なんと158番目の批准国なのだ。上記の“黒染め”事件、“地毛証明書提出義務”の学校側の意識の低さも、それを証明している。青木のぞみさん指摘の16条、28条が、前述の事件と関連した条文である。特に私が主張したいのは、全条文に関連する第3条の1、「子どもに最善の利益を」だ。引用してみよう※※。
第3条:子どもに最善の利益を
1 子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的、私的な福祉機関、裁判所、行政機関、立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一に考慮される。
第16条:プライバシィ・通信・名誉の保護
1 いかなる子どもも、プライバシィ、家族、住居、通信、名誉および信用を不法に攻撃されない(権利を持つ)。
第28条:教育への権利
2 締約国は、学校懲戒が子どもの人間の尊厳と一致する方法で、かつ、この条約に従って行われることを確保するために、あらゆる適当な措置を取る。

 さて、大阪の高校生の“黒染め”裁判の判決はどうなるのか?東京の高校生の「地毛証明書」は、今後も続くのか?子どもの権利条約批准が196ヵ国中158番目という日本、厳しく見守っていきたい!


※ 朝日新聞2017年10月28日  ※※ 国際教育法研究会訳

 

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