2018. 11月

紛争下の性暴力と闘う2人にノーベル平和賞

 

 2018年10月5日、ノルウェーのノーベル委員会は、2018年のノーベル平和賞を、紛争地の性暴力と闘い、世界中に警告を発した男性と女性2人に授与すると発表した。授賞式は12月10日、オスロで行われる。
 ノーベル平和賞受賞の2人とは、アフリカ・コンゴ民主共和国の婦人科医デニ・ムクウェゲ氏(63)と、過激派組織による性暴力被害者であることを公表し、被害者の救済を訴え続ける、現・国連親善大使(2016年就任)―イラク北部の少数派ヤジディ教徒ナディア・ムラド・バセ・タハさん(25)である。

■デニ・ムクウェゲさん―武装勢力の戦闘員によるレイプ被害を受けた女性数万人の治療

 コンゴ民主共和国(旧・ザイール)は、東部を中心に現在も内戦や乱立する武装勢力による武力衝突が続く。そうした中、ムクウェゲさんは20年近くにわたり、武装勢力の戦闘員らによるレイプ被害を受けた数万人もの女性への、傷ついた性器の治療と傷ついた心の支援を続けてきた。
 彼の病院の周辺地域では、今も武力衝突が続く。彼自身も、襲撃や脅迫を受けてきた。

■レイプを繰返す戦闘員らの目的は?
 ムクウェゲさんが、襲撃や脅迫を受けても被害女性の支援を続けるのは、戦闘員らの目的が性的欲求を満たすためだけでなく、女性を恐怖で支配し、地域社会を破壊する戦術としてレイプを用いていることを知っているからだ。
 被害者には、10歳未満の少女や、夫や子どもの目の前でレイプされ、精神的に多大な傷を負う女性も少なくない。加えて、被害の結果、生まれる子どもは、“敵の子”として集落から疎外されるなど、その影響は何世代にもわたって続いていく。ムクウェゲさんは、そうした被害女性へのPTSDへの支援も続けている。

■ナディア・ムラド・バセ・タハさん―イスラム国(IS)による被害の実態を証言!
 彼女は1993年3月、イラク北部の農村で、少数派・ヤジディ教徒※の家に生まれた。2004年8月、過激派組織「イスラム国(IS)」が村を襲い、きょうだい6人と母親を殺害。そのまま拉致されて、「性奴隷」として繰返しレイプや暴行を受けたが、3ヵ月後に脱出。以降、ISから受けた性暴力を公表し、国際社会に訴えてきた。
 ムラドさんは、(前述の)2016年9月、「国際親善大使」就任の演説で、自身を“集団虐殺のの生存者”と呼び、各国代表にこう問いかけている。「首の切断、性奴隷、子どもへのレイプ!これらの暴力行為に突き動かされないなら、いつ行動するのですか?」「いまも、アフリカや中東などの紛争地で絶えることなく起っている性暴力の被害者の切実な声を届けたい。性暴力から逃れてきた女性や子どもに国境を開放してほしい」と、難民保護を訴えたのだった。

■ノーベル平和賞の2人に、各国から賞賛の声
 「戦時のレイプは何世紀にもわたり、隠された犯罪だった。2人の受賞は、その犯罪に光を当てた」(ストックホルム国際平和研究所、ダン・スミス所長)。
 「2人の受賞は、恥の烙印を押され、隠され、忘れ去られた世界中の無数の被害者を認めるものだ」(国連・グレテス事務総長)。
 「性的暴行によって苦しむ女性の痛みを認め、立ち向かい、女性の尊厳が回復されるよう闘ってきた両氏の勇気と努力を称えたい」(国連・人権高等弁務官・バチュレ氏)。
 「身の危険を冒して、戦争の武器として使われるレイプの広がり、その犯罪が免責されていることを、2人は告発してくれた」(ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アフリカ担当 副責任者、イダ・ソイヤー氏)。

※イスラム国(IS)は、ヤジディ教を異教徒とし、その家族を性奴隷にする行為は当然だとしている。

 

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