2019年7月
ノーベル平和賞 ナディア・ムラドさんのスピーチ
「私を最後にするために」―その後のISは?
■平和なスリランカで、突如「連続爆破テロ」が起こる!
2019年4月21日、スリランカの最大都市コロンボなど3都市のキリスト教会、高級ホテルなど8ヵ所で連続爆破テロ事件が起き、世界中を恐怖におとし入れた。死者は日本人1人を含む外国人27人、地元スリランカ人226人の計253人、450人が負傷。自爆実行役とされる9人は、比較的裕福なスリランカ人だったという。当日は、キリスト教復活祭にあたり、スリランカ政府は、キリスト教信徒および外国人観光客を狙ったテロとして捜査を開始した。
■過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を発表
自爆テロ事件3日後の4月24日、ISが犯行声明を発表した。ISは、シリア、イラクの北部地帯にイスラム国(IS)を設立すると宣言し、一時は絶大な戦力を誇ったが、米国をはじめとする掃討作戦に屈し、2015年後半から衰退、2019年3月には、すべての拠点が制圧された、といわれた。
こうしてISの「領土支配」は終ったかのように見えたが、その思想は世界中に拡散していった。若者は熱狂しやすく、使命感に燃えやすい。ISに加わった世界中の若者たちは、女性も含む4万人にのぼったという。IS壊滅後、戦闘員らは東南アジア、南アジアの出身地に、ひそかに帰還し、スリランカ事件以前にも、左のような戦闘および自爆事件が起きている。
■自爆テロ首謀者のザフラン・ハシムとは?
イスラム過激派組織「ナショナル・タウヒード・ジャマアNTJ」の指導者ザフラン・ハシムは、地元カッタングディを中心に若者を集めて、イスラム教の教えを説く男だった。研究熱心で話が上手く、小さなモスクも自費で建てた。
その後、インターネットで賛同者を集め、組織を拡大。2016年には、ISのシリア支配地域に渡航し、IS戦闘員として参加、帰国。帰国後は、地元の若者らを集めて過激思想の洗脳を進め、2018年10月頃から、軍事訓練キャンプや隠れ家など、計17ヵ所の拠点を設置。3日間の「合宿洗脳キャンプ」を作り、受講生100人にISへの忠誠心を植えつけた。多くが20代の若いイスラム教徒だった。
■自爆テロ戦略は、IS戦闘員として身につけ、帰国後実行した!
スリランカ西部ネゴボンの聖セバスチアン教会の防犯カメラには、自爆男が映っていた。4月21日午前8時40分、あごひげを生やした黒装束の若い男は、大きなリュックを背負っていた。男は教会の西入口から入り、途中ですれ違った復活祭に来ていた女の子の頭を撫で、静かに復活祭の祈りを捧げる信者たちの列に加わった。
この男の腰には自爆ベルトが装着されていた。黒いケーブルの先には、手榴弾の起爆ピンが付けられていた。これを抜くと爆発する。防犯カメラには、自爆ベルトを切断する様子も映っていた。この方法は、IS戦闘員に参加し、タイミングの実施練習を重ねなければ身につかないものだという。
この教会で自爆した男は、2006年から英国や豪州の大学院に留学。その後、豪州のIS勧誘係と連絡を取り、シリアに帰国した男だった。ザフラン・ハシム首謀者は同じようにして、コロンボのシャングリラ・ホテルの爆破攻撃で自爆したと、シリセーナ スリランカ大統領が発表した。
■スリランカ―深まる宗教間の溝
地元報道によると、政府が事件への関与を断定した過激派組織「ナショナル・タウヒード・ジャマアNTJ」関係者200人が捜査当局に逮捕された。捜査幹部の発表によると、イスラム礼拝所や民家から、武器や爆弾製造の材料、現金などを次々と押収したという。
とはいうものの、テロ後に問題となっているのは、ムスリムに対する襲撃や嫌がらせだ。西部チラウや周辺地域では、商店やモスクへの襲撃が相次ぎ、ムスリム男性が某集団に刺殺された。東部カタングディの警察署には、ムスリム30人が押し寄せ、「急に家主から“出て行け”と言われた」と訴えたという。
キリスト教の地元記者は、「ムスリム全員が反省すべきだ」との記事を掲載。宗教間の対立と抗争は、今後とも、静まることなく、教会も学校も閉鎖。市民は恐怖におののく日々を過している。