北沢杏子のWeb連載

100回 私と性教育――なぜ?に答える 2012年6月

 

こうのとりのゆりかご検証会議 第二期報告
「こうのとりのゆりかご」―その後と問題点 そのU

前回に引き続き、「ゆりかご」検証会議※ 第二期報告です。

※検証会議・専門部会(部会長 弟子丸元紀 児童精神科医他、法律、小児科、心理学、児童福祉、福祉施設等の専門職の方々計6名で構成)

■あかちゃんの父親は誰? 預け入れにきた者は誰?
 本来なら手離すことなど考えられないわが子を「ゆりかご」に預けなければならなかった女性たち、彼女を妊娠させた男性とはどんな関係だったのか?聴き取り調査によると、婚姻中の夫9件、内縁関係1件、恋人同士7件、妻帯者の男4件、不明が9件です。
 つぎに、「ゆりかご」に預け入れにきた者は誰か?母親ひとりでが11件、父親のみが2件、母親と父親の2人でが3件、祖父母が1件、母親と友人でが5件、母親と祖父母が3件、父親と祖父母が1件、不明4件となっています。

 ここで問題なのは、「ゆりかご」に預け入れた理由に、あかちゃんの祖父母にあたる人物が、「戸籍がよごれる」「世間体が悪い」と言いたてて、自分たちで「ゆりかご」に直行していることです。例えば、地方の名門の家などで、未婚の娘があかちゃんを産んだとなると(出生届をせざるをえず)、戸籍に婚外子として刻印されてしまう。また、隣近所の噂になり世間体が悪い。だから即、匿名でこっそり「ゆりかご」へ―となるようです。祖父母が関係した預け入れが、30件中5件を占めていることでもわかりますね。
 これが家父長制、つまり一家の権限を握っている男とその妻の判断で、有無を言わせず決めてしまう。そこには、娘の人権もあかちゃんの人権も無視した暴挙しかない。加えてこれは、日本特有の戸籍制度の弊害とも言えるでしょう。

■「ゆりかご」に預け入れた理由は?
  理由の回答は複数回答になっていますが、最も多いのは未婚の9件―これはわかりますね。相手は“できちゃった婚”も拒否か? 次に生活困窮も9件―例えば夫の失業とか、シングルマザーで経済的にやっていけない。パートナーの問題が6件。これは、夫がDV男だったり、ギャンブルにはまって家庭放棄の無責任な男だったり……。既婚者との関係が4件。これは、相手の男性に妻子がいる、または自分に夫・子どもがいる場合など。養育拒否の2件は、うつや精神疾患などで子育てが苦痛というものか?
 そして、前に説明した家父長制―親の反対が2、戸籍がよごれる、世間体が悪いの6をあわせると8件になります。それから、障害児というのが1割となっています。こうした障害児を持ったときの悩み相談の窓口や、親自身の受容への支援も社会福祉の課題でしょう。

■「ゆりかご」の子どもたちの未来は?
 乳幼児預け入れがあると、「ゆりかご」のスタッフは先ず、児童相談所に通報。相談所の職員が駆けつけて、子どもの一時保護を行ない(虐待がないかも専門職が審査)、乳児院や児童養護施設への入所措置、里親への委託もしくは養子縁組など、子どもに最善の利益を考えて実行に移します。

 ここで大きな問題として取り上げたいのは、子どもの出自を知る権利が重く見られていないことです。子どもは思春期になると必ず自分のルーツ(出自)を知りたいと思い始めます。自分は誰の子なのか?親はどこにいるのか?親はなぜ自分を手放したのか?その理由は?……と。
 そして成長するにつれて、自分のアイデンティティがゆらぎ、自分は何者か?というPTSDが生涯つきまとい、さまざまな葛藤を生むことです。

 検証会議第二期報告は、出自についても提言しています。
● 子どもの、実の親を知る権利、自らの出自を知る権利を保障しなければならない。
● 慈恵病院は可能な限り、預け入れにきた親の相談につなぎ、子どもの身元判明に力を注ぐこと。
● 今後は、預け入れにあたり、実名化を前提とした上で、預け入れ者の秘密を守る方法についても検討すべきだ。
 そして更に地域社会の人びとに対し、子育てについて課題を抱える女性たちへの協力と支援とを呼びかけています。さて、2年後の第三期報告は、どう改善されているでしょうか?読者の皆さんの提言をお待ちします。

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