北沢杏子のWeb連載
第101回 私と性教育――なぜ?に答える 2012年7月 |
13カ国の研修員を迎えてのワークショップ ―テーマは発達段階に応じた性教育―
毎年1年に1度、国際協力機構(JICA)の委託を受けたジョイセフ(JOEFP)が、世界各国からの研修員を案内して、私が仕事の拠点としているアーニホールにやってきます。去る5月28日には、アフリカのリベリア、ウガンダ、タンザニア、南アフリカ共和国。東南アジアのインドネシア、バングラデシュ。南太平洋諸島のキリバス、ツバル、そして中国の13人。
各国の政府やNGOの保健医療従事者のみなさんで、日本に3週間滞在して研修を受け、帰国後、各地のリプロダクティブ・ヘルス向上のために役立てることを目的としています。
当日は研修員の方々の要望――「発達段階に応じた性教育は?」に応えるために、ホール一杯に飾った目でみる教材を駆使してのワークショップを行ないました。「わたしはどうして生まれたの?」のペープサート教材を使い、5〜6歳児のための性教育――右手に持った精子を左手の卵子の中に差し入れて、ひっくり返すと生まれたばかりのあかちゃんの顔が描かれている――という模擬授業をしたり、お母さん役になった研修員が、あかちゃん人形(身長50センチ、体重3キログラム)を使って、あかちゃんを産むロールプレイをしたり。助産師さん役の研修員が、出産を介助し、お父さん役の男性が妻を励ましたりして、みなさんとても熱心でした。
つぎにエイズ予防の紙芝居―これは2〜3年前にやってきたアフリカの女性研修員たちが描いた原画に手を加えて完成させたものです。そのときジンバブエからきた研修員の話では、この国の人口1,200万人のうち120万人(10人に1人)がエイズウィルスHIVの感染者・患者であり、親がエイズで死亡した孤児は100万人にものぼるとのこと。
2008年のリーマンショック以降の景気後退、欧州の債務危機が、途上国への援助金を激減させており、HIVへの抗レトロウィルス薬治療(ART)は先細りの一途。前の年には親しい友人や親族の死が十数人にものぼったと、涙ながらに訴えたのでした。そこで、その実情を踏まえた作品を作成しました。
さて、紙芝居のストーリーは、10代の少女が2人のボーイフレンドのうち、コンドームを持っていない方の少年と(イケメンにひかれて)ベッドイン。やがて2人の仲が学校に発覚して少女は退学させられ、キャリーバッグを曳いて田舎の我が家に戻ってきます。
翌朝、庭の掘立小屋のトイレで嘔吐する少女。物陰で母親が心配そうに見ています。続いて激しい下痢―少女は妊娠し、HIVにも感染したようです。家父長制の村のしきたりで、少女は家から追い出され……しかし、地域のリプロ・ヘルス施設で出産。HIVの治療と職業訓練を受けて、明るく生きていくというシーンで終ります。
夢中で見ていた研修員たちの間に、安堵の溜息がフーッと溢れました。そして、こうした紙芝居の体験を、帰国後、各国各地で広めたいと口々に訴えるのでした。
数日後、13人の研修員からの感想文「アーニホールでの学び」が送られてきました。それには体得したこととして、●歌や紙芝居が活用されていたのが楽しかった。●手作りの人形や教材を使っての、わかりやすい指導が重要。●情報を提供するとき、知識だけではなく感性に訴えることが必要。●教材を作成する際には“ジェンダーの平等”を心がけること。●性の指導は、社会的・文化的に受け入れられにくい分野だが、北沢さんの「あきらめないこと」というメッセージに感動。周囲の抵抗や反対にあっても決してあきらめない決意を再確認した……などが書かれていました。
ともあれ、途上国の人びとの盛んな知識欲、底抜けの明るさ、逞しさに、逆に感動させられた1日でした。