北沢杏子のWeb連載

108回 私と性教育――なぜ?に答える 2013年2月

 

特別支援学級の中学生たちとの勉強会―月経・夢精・マスターベーション―

 過日、私が仕事の拠点にしているアーニホールに、ある市立中学校の特別支援学級に通級している中学生12人(男子9人、女子3人)、お母さん12人、先生4人が、私の講座を受けにやってきました。
 あらかじめ書いてもらったアンケートの私の出題は――@学校は楽しいですか? Aそれは、どうしてですか? B自分の好きなところは、どこですか? C将来、なりたい職業は? D体のうえで心配なことは? E心のうえで心配なことは? の6項目。
 特別支援学級に通う生徒たちは、音楽や体育などは普通学級の生徒と一緒、数学・国語などは、同じ校内の特別支援学級で、T・T(チームティーチング)で学びます。
 Cの将来なりたい職業は?の答は、電車の運転士、力仕事、すし屋、玩具屋、保育士、本屋、ケーキ屋などと書かれていました。Bの自分の好きなところは?で、感動したのは、「ぼくのこころ」「わたしの笑顔」と書いてあったこと。素直でいいですね。
 「将来の職業」についても、無理ではとも思えますが、世界で活躍するテニスの伊達公子選手が言っているように、「心の中で限界を作らなければ、人間の可能性はひろがっていく」。知的障害をもつこの生徒たちにも、同じ意味でエールを送りました。「うん、きっと希望の職業につけるよ」と。

 さて、問題は、E心のうえで心配なことは?の回答に、“いじめ”がひどい/バカ、死ねと言われる/笑われる/傷ついている/心が疲れる、などと書かれてあったこと。たぶん、特別支援学級から普通学級に戻る度に、こうした“いじめ”に遭っているのでしょう。
 私はお母さんたちと相談して、人数分のハート形の教材を作りました。そのハートには、中央に裂け目がついています。そして、お母さんたちがいじめっ子役になって「バカッ」「うざい!」「死ね!」などと叫びます。すると舞台に並んだ12人の中学生たちのハートは“ビリビリパチン”と割れるのです。
 いじめ役のお母さんたちが「さっきはごめんね」「悪かった、許してね」と謝ると、ハートはもとに戻るというロールプレイです。中には「僕の傍まできて頭を下げてほしい」という子もいて、大笑いのうちに終りましたが、先生方は感じるところがあったようで、学校に戻って普通学級の生徒たちに報告すると、私に告げました。
 次にお母さん方の相談のアンケート――ちょうど思春期の子どもたちとあって、「異性との距離のとり方」および男子は夢精やマスターベーション、女子は月経の手当ての問題が悩み……。そこでホールの壁に貼ってある教材を使って、プライベートゾーン――男女とも、水着をつけている下の部位(乳房、性器、肛門)は、自分の、そして相手の意思に反して触ったり、触らせたり、見せたり、見せられたりしてはいけないところであると、具体的に繰返し話しました。
 次に二次性徴(からだの変化)はなぜ起こるのか?などを説明。そのあと、男子と女子に、男の子の人形と女の子の人形を持たせて、月経・夢精を体験していることを確認。女の子には月経血のついた生理用ショーツの洗い方を、男の子には夢精やマスターベーションで洩らした精液のついたブリーフの洗い方の実際を演じてもらいました。
 「そう、女の子も男の子も、月経や射精が始まったら“大人の仲間入り”をしたってわけ。よごしたショーツやブリーフは自分で水洗いしてから洗濯機に入れようね。それがお母さんへのエチケットですよ」と私。
 フロアのお母さんたちの間から「フーッ」「ホーッ」と、感嘆と安堵の溜息が洩れました。

 ところで問題なのは先生側です。先生側からは、あらかじめ「障害児に性教育を行なうと、性への関心がさらに高まり、よくない方向にいってしまう可能性があるので、そういった内容以外で講話をお願いします」との注文。
 私は「いいえ、性について正しい知識を繰返し教えることこそ大切。例えば、人前でマスターベーションをしているのを目撃したとき、“だめ!やめなさい!”と叱らないで、『自分の部屋で』『自宅の浴室で』『自宅のトイレで』と、自作のカードを見せながら、繰返し優しく説明する。そうすることで、教えられる側と教える側の信頼関係が構築され、約束ごとを守れる子どもに成長するのです」と。

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