北沢杏子のWeb連載
第111回 私と性教育――なぜ?に答える 2013年5月 |
UN AIDS(国連合同エイズ計画)の最新レポートと政治宣言 そのT
このレポート(2012年版)は、国連加盟国193ヵ国の96%にあたる186ヵ国が提出した、自国のエイズ対策に関する包括的な情報をもとに発表されたもの。世界各国は、エイズの終結に向けて、「国連HIV/AIDSに関する政治宣言」を行ないました。この宣言は2015年までの達成を目標とするもので、10項目の目標を設定していますが、本稿では(紙幅の都合で)、その中の5つについて報告します。
1.性行為によるHIV感染を半減させる。
2.注射による薬物使用者のHIV感染を半減させる。
3.世界のエイズ対策資源の差をなくし、低・中所得国に対 する世界投資額を年間220〜240億ドルにまで拡大する。
4.男女の不平等と女性および少女への虐待・暴力をなくし、 女性・少女が自らをHIV感染から守る能力を高める。
5.人権と基本的自由を完全に達成できる教育・政策を促進 する。
■世界のHIV陽性者数と日本の現状
UN AIDSの報告によると、2012年末の世界のHIV陽性者数は約3,400万人で、15〜49歳の成人の0.8%が感染しています。しかし、この数字は国や地域によって大きな差があり、最も多いのはサハラ以南のアフリカで、成人の20人に1人(4.9%)がHIV陽性者。世界全体の陽性者数の69%を占めています。
とはいえ、南アジア、東南アジア、東アジアの陽性者数は500万人ですから、私たちも安心してはいけない。日本の現在のHIV患者・感染者の累計数は21,422人。年間約1,000人以上が新規感染者として増え続けいます。
にもかかわらず、小・中学校での正しい「エイズ予防教育」は行なわれておらず、メディアもHIV/AIDSに無関心で殆ど報道されていないのが現状。10代の性交体験の低年齢化の全国調査が発表されても、学校でも家庭でも「エイズは他人事」と無関心なのは問題です。
■HIV感染のハイリスク第1位は注射による薬物使用者
注射による薬物使用者は、最も深刻なHIV感染ハイリスクの人口集団です。世界の注射による薬物使用者は推計1,600万人、うち300万人がHIV陽性者で、現在、25歳以下の若者の急激な薬物使用の流行が問題になっています。
中でも、女性・少女は特にリスクが大きいとか。というのも、薬物注射常習の女性は、パートナー、警察、セックスが目的の客による暴力にさらされやすく、自己防衛が困難という理由によると、報告されています。
■ハイリスク第2位はMSM(男性とセックスする男性)
南アジアおよび東南アジア、西ヨーロッパおよび中央ヨーロッパでは、MSMの流行がHIV感染の大きな原因になっており、日本も例外ではありません。
MSMを国のエイズ戦略に含めている国は146ヵ国にのぼっていますが、MSMの感染予防プログラムに対する資金を主に国際ドナー(援助国および国際機関)に頼っており、世界的不況による資金不足のため、カバーレージが不充分なまま増え続けているのが現実です。
MSMの特徴として、「コンドームの不使用」が感染の大きな要因であることを、周知徹底させる必要があります。
■ハイリスク第3位はセックスワーカー
女性のセックスワーカーの世界全体の陽性率は12%、他の女性に比べてHIV感染の可能性は13.5倍となっています。とくにセックスワーカーへの法的保護が施行されていない国(売春厳罰法施行国)では、予防の知識や検査の必要性の周知徹底が行なわれておらず、それが感染拡大につながっていると考えられます。
■ジェンダーの不平等による女性感染者の拡大
特に低・中所得国では、男女間の経済的アンバランスから、女性・少女の地位が低いため、性行為に対する自己主張ができず、コンドームの使用を要求することを含めて、「自身をHIV感染から守る手段を選ぶことが難しい」と報告。
女性の意思決定の欠如、資源へのアクセスの欠如、パートナーへの暴力と彼から棄てられることへの恐怖、「女は男に従わなければならない」という因習、望まない妊娠の拒否ができないなど、ジェンダーの不平等が女性・少女を苦しめている実態が報告されています。
では、日本に住む少年少女たちは、どうすればいいか?HIV感染経路の大半を占めているのが性行為によるものであることは、誰もがわかっていることですから、「行動の変容」が最も効果的な感染予防法です。
そのためには、自己の意思決定力、それを相手に伝える対話能力、相手の意思を尊重する人権意識が必要であり、衝動的および無意識的な行動は絶対にとらないことです。
UN AIDSは、年齢に応じた徹底的な性教育を受けることで、「自分の性行動に、より責任が持てるようになる」との前置きの後に、具体的には、@低年齢での性行為を前倒しにする。A性行為の相手数を減らす。B継続的な正しいコンドームの使用―を提示しています。そう、日本の10代の少年少女たちよ、まずは、これから始めよう!