北沢杏子のWeb連載

115回 私と性教育――なぜ?に答える 2013年9月

 

エイズ予防財団主催「HIV/エイズ基礎研修会・最新情報 報告」

 医師、臨床心理士、社会福祉士、看護師、保健士のみなさん90人限定のエイズ研修会が、東京・市ヶ谷のカンファレンスセンターで開催されました。私も参加したので、研修会での各講師のお話の中で、特に印象に残った新情報を記述しましょう。

@世界のHIV感染者・患者の累計数と注意事項
 2012年末の世界のHIV感染者・患者の累計数は3,420万人。日本の2012年1年間の新規感染者は1,200人で、ここ8年連続1,000件を超えています。新規感染者の80%がゲイ、バイセクシュアルが13.8%、ヘテロセクシュアル3.1%、レズビアンが0.0%、その他が1.3%、わからないが1.9%となっており、感染経路は、同性間88.1%、異性間が2.5%、同性か異性かわからないが4.4%、血液製剤によるものが1.3%、注射器・針の共用が0.6%、わからない/覚えていないが3.1%で、これらの報告から、MSM(男性とセックスする男性)の爆発的流行が懸念されているということです。
 中学生年齢でのHIV症例報告もありました。少年たちは、MSMを目的に誘惑する成人男性に気をつけなければなりません。
 予防法として、MSMの場合、アナルセックスはもちろんオーラルセックスの場合もコンドームを使用すること。女性性器へ腟性交は当然ですが、オーラルセックスの場合もデンタルダムやコンドームを切り開いて使うようにと忠告しています。

A「もし」と思ったらどこに相談すればいいか?福祉の支援は?
 現在全国に380のエイズ治療拠点病院があり、全国の保健所で相談にのってもらえ、専門病院を紹介してもらえます。ただ、地域によっては拠点病院への往復が1〜2時間以上かかることがあり、その場合は近くのHIV治療にたずさわっている病院やクリニックを紹介してもらいましょう。
 ただし、地域の病院やクリニックでは、近所の方にHIV感染者だと知られるのが嫌で、無理して遠くの拠点病院に通院しているのが現状だそうです。医療機関への啓発が必要でしょう。
福祉:1998年4月から、身体障害者福祉法上の身体障害者として認定されれば、サービスが受けられるようになりました。最寄りの福祉事務所、市町村の相談窓口に申請してください。

B性感染症に注意―性器だけでなく、のど、目、肛門、皮膚などにも感染する―
 性感染症(STI)、クラミジア、梅毒、淋病、性器ヘルペスなどに感染していると、性器の粘膜が壊れてHIVに感染しやすくなるので、少しでも気になることがあったら検査を受けること。特に女性のクラミジア感染は自覚症状がないことが少なくないため、放っておくと不妊症、子宮外妊娠、母子感染の恐れがあります。B型肝炎も性的接触(性交、オーラルセックス、アナルセックス)で感染するそうです。検査の結果、HIVとの重複が多いとの報告がありました。
 梅毒、ヘルペス、HPV(コンジローマ)、毛ジラミは、コンドームでは防げないことも知っておきましょう。

C発症抑制剤を規則正しく飲み続けることが基本
 現在、使用可能な抗HIV薬は、@核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)、Aプロテアーゼ阻害剤(P1)、Bインテグラーゼ阻害剤(I1)、C非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、D侵入阻害剤(E1)などですが、これらの発症抑制剤は、専門医の指定医どおりの時間に指定どおりの量を飲むことが肝要。薬を中途半端に飲む(飲み忘れや不規則な服用)ことが、HIV耐性化の要因です。HIVは立ち止まらない!進行的に変異し高度の耐性へと変化していくので注意!とのことです。
朗報:近いうちに1日1錠の服用で済む薬剤、1ヵ月に1回で済む注射が実現するようですよ。

DHIV感染している人が他の病気を併発したときは?
 心筋梗塞、脳疾患、交通事故による怪我などに遭わないとも限りません。そうした場合は、かかりつけの医師にHIV感染者であることを告げる必要があります。特に歯科医には告げなければなりません。というのも、処方される鎮痛剤、抗生剤などには、抗HIV薬や他の薬との飲み合わせによる健康被害が発生する恐れがあるからです。
 抜歯などの外科処置には、免疫状態や血液検査のデータを提出すること。歯科医への情報提供書は、HIV治療に通っている医療者に申し出て受け取りましょう。交通事故に遭った時を想定して、緊急連絡先カードを携帯すること。カードには「私の主治医は○○病院、××科、某先生です」と書いておきましょう。

E緊急課題―患者・感染者の高齢化
 HIVに感染しても、定期的な規則正しい服薬によって、死ぬ病気ではないということは実証されています。ところが、日本の場合の実例ですが、感染してから20年という方も少なくなく、感染者・患者の高齢化が目立つようになり、通院中の4人に1人が50歳以上ということです。
 その方たちの心配事は、将来介護が必要になったときに、HIV感染者・患者であることを施設側に告げなければならず、ヘルパーが介護を断るのではないか?ということ。施設側、介護者、ヘルパーさん側への情報提供と教育が緊急課題となっています。

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