北沢杏子のWeb連載

117回 私と性教育――なぜ?に答える 2013年11月

 

青森県の小学校での「いのちの学習」 そのU

 青森県G市の市立小学校5・6年生145人対象の「たのしいな、いのちの学習」には、事前に児童たちからアンケートをとり、集計してから授業に臨みました。
 アンケートの中の「こころの上で心配なことは?」の回答は―●親に反抗するようになった/親に口答えする回数が増えた、など多数あり、私は次のように解説しました。
 「人間は誰もが第1反抗期(3〜5歳)、第2反抗期(11〜15歳)を経て、こころが成長するんだよ。みんなは、その第2反抗期だから、トレーニングだと思って大いに反抗なさい。ただ、突然“くそばばぁ”なんて怒鳴らないで、“お母さんが言っている、こういうところが納得できない”と、沢山の言葉を費やして話しあうこと」と。

 次に多かったのが「いじめ」―●友達に、きつくあたるようになった/喧嘩の回数が増えた/などと並んで、「いじめられている友だちを助けられない自分が悲しい」といった思春期らしい自己批判も見られました。
 そこで教材としてブロードマンの脳地図を示しました。
 人間の脳の奥の方には、どの哺乳類にも備わっている、食欲、性欲、闘争欲の機能を持つ古い皮質があって、これは生きていくために必要な本能です。しかし人間は、進化の過程で、その周りをぐるりと新しい皮質が囲みました。この新皮質の厚みは2.5ミリ。表面積は2,250平方センチで、ちょうど新聞紙1ページ分ぐらいの大きさ。そんなに大きな新皮質だから、たくさんのしわを作って縮め、頭蓋骨の中に納めてあるの。そして、そこに140億個もの神経細胞が並んでいて、さまざまな機能を果たしているのです。
 「この図をよく見て!おでこのところに9番、10番、11番って番号がつけてあるでしょ?ここは理性の働きをするところ。みんなの脳の古い皮質の本能―闘争欲が、いじめや喧嘩、無視するなどの衝動に駆り立てる。すると9番、10番が『やめとけ、やめとけ』ってささやくんだよ。で、やめたら11番が『えらい、えらい、よくやめた』って褒める。それで、みんなの脳は一段と成長するのです」。

 アンケートの回答で3番目に多かったのは―●お父さんとお母さんが喧嘩をする/お父さんとおじいちゃんが喧嘩をする/お母さんとおばあちゃんが喧嘩をする、でした。それを見て心を痛めている子どもたちの様子が想像できます。私は、見学している保護者にもわかって頂こうと、こう切り出しました。「家族の大人たちの喧嘩を日常的に目撃しながら育った子どもは、視覚野(図の17番)が傷ついているという研究を、米国ハーバード大学の研究チームが発表したんだって。だから、“僕や私の眼の前で喧嘩しないで、外でやってきて!”って言いましょう」と。

 夏休みが終って9月に送られてきた児童たち145人分の感想文は、この脳の話に関するものが最も多かったのです。
●僕は闘争欲が強く、喧嘩ッ早い!ので、先生に教わった脳の理性の部分、9番、10番を使って、喧嘩本能をおさえたいと思った/きょう勉強したことで一番すごいと思ったのは脳の勉強です。僕の脳の11番が、どのくらい育っているか知りたいです/僕は9番10番もいいけど、あまり理性にばかり従っていたら、消極的な人間になるんじゃないかと思います/私は、親に反抗することは悪いことではなくて、今は社会に出ていく前のトレーニングの時期だと教わって安心しました。これからは親子で話し合おうと思いました/私は将来、子どもの前で絶対に夫婦喧嘩なんかしないと思った。だって、17番が傷ついたらかわいそうだもん/「いのちの学習」でわかったことは、いま僕たちは第2次性徴のまっ最中だということ、誰にでも反抗期があるということ、本能の自制心の働きをする自分の脳は、とてもえらいんだなということです/きょう学んだことは、大人になっても心のタンスの中にしまっておき、決して忘れないでしょう。感謝です!

 私の方こそ、こんなにも素直な“受けとめられ体験”をさせてもらった145人の児童たちに感謝です!
 折も折、中央教育審議会(中教審)は、いじめ対策として公教育の権限を教育委員会から自治体の長(首長)に移す案を検討中とか(朝日新聞 2013年9月25日)。こんなにも感受性豊かな子どもたちの感想文の数々を、ぜひ、中教審に読ませたいと思いました。
 学校教育の中に、脳=心の学習を加える方が、いじめ対策になるのではないでしょうか?
 5年生、6年生のみなさん、ありがとう!

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