北沢杏子のWeb連載
第120回 私と性教育――なぜ?に答える 2014年2月 |
小学校で「初経」教育をしたら、高等学校では「閉経」教育を!
妊婦の血液検査だけでダウン症他の胎児の染色体異常が、高い確率で判断できる新型出生前診断―この検査を昨2013年4月から10月までの半年間に受けた女性は3,514人、その1.9%にあたる67人が陽性と判定(NIPTコンソーシアム発表)。陽性とわかった時点で、さらに羊水検査を受けて異常が確定したのは56人で、うち53人が中絶を選択したということです。この検査の対象となった妊婦の平均年齢は38.3歳で、検査を受けた理由は、94%が「高齢妊娠を心配して」でした。
新型出生前診断の検査対象者は、日本産婦人科学会(日産婦)の指針により@35歳以上の高齢妊娠者。A他の検査で胎児に染色体異常が疑われた場合―に限定。B妊婦が十分な遺伝相談を受けられる施設であること。C産婦人科と小児科医が常勤し、そのどちらかが臨床遺伝専門医の資格を持っている医療機関であることと規定。現在、全国で約37医療機関に限定されています。
この機関で採決された血液は、米国の検査会社に送られ、結果が判明します。費用は20数万円かかるそうです。
女性の社会進出は喜ぶべきことですが、キャリアを積むうちに、つい高齢妊娠になってしまう。そして上記のように血液検査を受け、さらに羊水検査を受けた結果、「中絶」を選ばざるを得ないという苦渋に満ちたいのちの選択を迫られているのが現状です。
さて、ここで、またまた問題が!中国企業が出生前診断を1件10万円で日本に売り込みにきたのです。同社は、世界有数の遺伝子解析会社で、昨2013年7月に神戸市に関連会社「BGIヘルスジャパン」を設立。同年12月から本格的にPRを開始しました。
中国の遺伝子解析会社が日本で始めた新型出生前診断の検査費用は10万円で、遺伝カウンセリング(遺伝相談)を条件とせず、遺伝相談の専門家がいない産婦人科や不妊クリニックでも、個別に検査を請け負う形になっています。
ウェブサイトでも「低価格で魅力的」と宣伝。高齢妊娠だけでなく、体外受精者も対象に。さらに、一部のクリニックに「半額でもいい」との営業も行なっており、既に数十件の問い合わせが来ているとのことです。
日本医学会「遺伝子・健康・社会」検討委員会は、このままではBGI社の「血液検査」が野放しに広がりかねないと判断。2013年12月23日、慎重な実施を求めた日産婦の指針と、「厚生労働省の通知」を守るよう、呼びかけました。
さらに2014年1月8日、日本医師会は、中国の検査会社に、日産婦の指針を遵守するよう求める見解を発表。医療機関に対しても、科学的な評価の定まっていない遺伝子検査を「安易に導入すべきではない」と警告を出しました。
ここで、すばらしい情報を読みました(2014年1月15日「しんぶん赤旗」)。「妊娠可能性の性教育を!」のタイトルで「不妊や高齢出産のリスクについて、高校の保健体育の授業で教えるべきだ」という、日本家族計画協会専務理事、北村邦夫氏の記事です。
「女性の閉経は、45歳から56歳の間で、過去12ヵ月以上月経が止まった状態と定義され、生殖機能の終了を意味します。いま、(高齢妊娠と染色体異常の原因として)卵子の老化ばかりが問題にされていますが、精子も老化します。精子の力(受精能力)は、35歳を超える頃から衰えていくという研究報告もあります。つまり、男性側と女性側のどちらの要件が欠けても、妊娠は成立しないのです。こうしたことを、科学的かつ具体的に教えることが必要です」と。
性教育バッシングの現在ですが、文部科学省も、急速に少子高齢化が進む日本の将来を心配するなら、学校教育の中に、このような性教育をしっかり組み込まなければならないはず。「初経と月経の手当てを教えるなら、閉経と不妊の原因も教えよ」との、北村氏の記事に賛同して、ここにお伝えしました。