北沢杏子のWeb連載

124回 私と性教育――なぜ?に答える 2014年6月

 

働く女性たちのために「子育て支援制度」の充実を! そのU

 前回で厚生労働省の産前・産後・育児・介護を行う労働者に関する法律(2010年施行)を記述しました。とはいえ産休後の復職にあたって、認可保育所に入れない「待機児童」は現在、約5万人もおり、年々増え続けています。更に夜間保育所は全国に81ヵ所、24時間保育所に至っては僅か5ヵ所しかないというのが現状です。
 こうした保育施設不足社会が産んだベビーシッター男(26)のマンションで起きた幼児死体遺棄事件(2014年3月17日)。一人親の母親(22)が長男(2)と次男(8ヵ月)の兄弟を、3月14〜16日の3日間の約束で、ベビーシッター紹介サイトで紹介された(面識もない)男に預けています。彼女は子どもを引き取る予定日の16日に男と連絡が取れず、警察に捜査を依頼した結果、長男の死と低体温で瀕死状態の次男を発見―という痛ましい事件です。

 ベビーシッターの民間資格制度を設けている全国保育サービス協会の理事によると、同協会が認定したベビーシッター数は12,000人。利用者の職業は会社員、美容師、看護師、塾講師、百貨店勤務、飲食店勤務、大学教授など様々で、残業や夜勤、地方出張、疾病などが預ける理由だとか。ところが、こうした大手シッター会社は、1時間につき2,000〜3,000円と高額すぎる。ある音楽講師は仕方なく、週5日の夜間のピアノレッスンの間、マッチングサイトで探したシッターに、時給1,500円で0歳児を託しているものの、シッター代は月額10万円にものぼるそうです。

 安倍信三首相は、「少子高齢化社会」が進み労働人口が激減することで、日本の経済が冷え込むのを恐れるあまり、「経済成長戦略」として、女性の社会的地位の推進を挙げ、そのためには「子どもが3歳になるまでの育児休業、短時間労働の取得」を経済界に要請しました。
 いわゆる「3年育児・抱っこし放題」、“魅力的な提案だろう”と公表したものの、働く女性たちにとっては、無意味な長期産休でしかない!
 現在、あらゆる職種の技術は日々めまぐるしく進歩し、職場の環境も変化しています。3年間も育休を取って戻ってきたら、キャリアの断絶によるリスクは想像以上で、同僚と同じレベルの仕事をこなすことは困難。その結果、意欲はあるのに低レベルの仕事に廻され、自主退職に追いやられる例も少なくありません。

 ならばどうすればいいか?子育て社会制度の充実しているフィンランドの例を挙げてみましょう。この国の女性の労働参加率は男性とほぼ同等であり、特に都市部で働く女性にとって「子育て支援制度」は女性の権利と考えられています。
 ヘルシンキでは、すべての子どもが1日5時間の保育を無条件で受ける権利があり、この他に全日保育、夜間保育、週末保育、24時間保育サービスが所得に応じて有料で受けられ、親は保育サービスの種類を選ぶことができます。
 更に、すべての母親が105日間の出産・育児有給休業を取る権利を持ち、その後は子どもを保育施設に預けて、元の職場で同じ仕事、または同じレベルの類似の仕事に戻る権利を持っています。父親は有給の18日間の産休と12日間の育児休業(パパの1ヵ月)を取ることができ、実行しない父親には、罰則も規定されているという徹底ぶりです。

 日本の父親の育児休業取得率は、どうでしょうか?
 人事院が、厚生労働省の法律で規定されている「父親の育休」を取らなかった国家公務員男性5,000人対象の意識調査をしたところ、約70%が「育休を取る必要はないと思った」と答えた、と発表しています。
 国家公務員女性の育休取得率96.5%に対し、男性は僅か3.7%。取らなかった理由は「自分以外に育児をする者(妻)がいるから」が79.9%。一方、「取りたかったが、できなかった」が27.9%で、理由は「収入が少なくなり家計が苦しくなるから」との回答が目立ったとか。

 前回の経済協力開発機構(OECD)事務総長の「日本の働く女性の賃金は男性に比べて27%低い」との苦言が思い出されます。これでは、現在、世界104ヵ国が批准している国連の「女子差別撤廃条約」※にパスできないのは当然ですね。
 今こそ働く女性たちは、安倍政権に対し、口先だけの「女性の社会的地位の推進」ではなく、より具体的な「子育て支援制度の確立」を突きつけなければならない!
 女性たちは知恵を結集して、「待機児童をゼロに/保育士の賃金の格上げを/24時間託児所の設営/夫の育児休業の義務付け/育児のための短時間勤務の徹底を!」と。
 道は遠いかもしれない。でも、希望を持って働く女性の子育ての明るい未来のために闘いましょう!

※ 日本政府は「わが国の司法制度と問題が生じる恐れがある」として、 2013年5月現在、これを批准していない。

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