北沢杏子のWeb連載
第125回 私と性教育――なぜ?に答える 2014年7月 |
どうなっている?「こうのとりのゆりかご」の現在 そのT
「こうのとりのゆりかご」にあかちゃんを預け入れた具体的な理由
「こうのとりのゆりかご」検証委員会は児童精神科医、小児科、弁護士、心理士、児童福祉、福祉施設の専門職の方々計6名で構成され、2年に1回の公的検証報告が行なわれています。
今回は「ゆりかご」が利用された個別事例および慈恵病院での相談事例などの分析を基に、2007年5月10日の運営日から2013年11月30日までの6年6ヵ月間の検証報告で明らかになった事例のうち、あかちゃんを預け入れた具体的な理由について記述しましょう。
◆事例A:妊娠中は育てられると思っていたが、収入がなくなったため、児童相談所に相談したところ「生活保護」を紹介され、生活保護相談にも行ったが「受けられない」と言われたことから、ゆりかごに預けるしかないと思い、未婚の母親と父親が預け入れた。
◆事例B:未婚で妊娠し、中絶に10万円かかると言われ、できなかった。市の福祉課に相談したが、「母子生活支援施設」は空きがなく入れなかった。病院で出産後、市の保健師の訪問を受けたが、相談ができなかった。「ゆりかご」をインターネットで知り、電話相談より直接行った方が保護してもらえると思い預け入れた。
◆事例C:母子家庭で、生活保護を受けながら前夫との子を5人育てており、別の男性との間に6人目を妊娠。出産がわかったら生活保護を取り消されると思い、自宅出産し、経済的に育てられず、出生届も出せないため預け入れた。
◆事例D:既婚で3人目の妊娠。夫に大反対され、また生活が苦しく、これ以上は子どもを育てられないとの理由で、誰にも相談せず、自宅出産後に新幹線を利用して預け入れた。夫は中絶したと思っており出産の事実を知らなかった。
◆事例E:妊娠し、同棲しようとした矢先に婚約者が行方不明となった。一人では経済的に育てられない、また、戸籍にも載せたくないと、自宅出産し、インターネットでゆりかごを調べて預け入れた。親には、何度も子どものことを相談しようと思ったが話せなかった。
◆事例F:未成年での妊娠、自宅出産。家族と一緒に住み、きょうだいも多いなかで生活していたが、誰も妊娠したこと、自宅で出産したことに気づかず、本人も家族に話せないまま、「ゆりかご」に預け入れた。
◆事例G:未婚での妊娠。最初は産む方向で相手と話していたが、その後、「産むか・産まないか」でもめ、相手とも会わなくなった。自宅出産した1か月後、職場に復帰する前日に預け入れた。預け入れ時の乳児の体重は2,200gと軽く、低体温、衣服の汚れ、悪臭がみられ、預け入れが遅れたら死亡していたかも。
◆事例H:医療機関で出産。子どもには四肢に軽度の障害があったため、病院もかかわり、退院後の治療計画等も本人に伝えたが、退院したその日に預け入れた。
◆事例I:医療機関で出産。子どもには複数の障害があったが、病院側の支援もあり、父母ともに頑張って養育しよう思っていた。しかし、さらに別の障害があることを告知されたため、神経衰弱となり、預け入れた。
◆事例J:事前にインターネットで「ゆりかご」を調べ、自宅出産後、生まれてすぐ、子どもを飛行機に乗せて預け入れた。
◆事例K:「ゆりかご」へ移動中の車中で出産。未成年の母親は預け入れた時、出血が多く、生命の危険があった。初めは診察を拒否していたが、慈恵病院の説得の末、治療を受け入れ入院。新生児は「ゆりかご」に預け入れた。
慈恵病院 蓮田理事長インタビュー
蓮田理事長は「慈恵病院内での初期対応」について、以下のように答えている。
「子どもが預け入れられた場合、病院では、子どもを保護し、医師の健康チェックを行うとともに、直ちに関係機関(熊本県警・熊本南警察署、熊本市児童相談所)に連絡を入れると同時に、預け入れた者との接触ができた場合には、できる限り相談につないでいる」「預け入れられた子どもの身元がわからない場合は、戸籍法上は『棄児』として、熊本南署から、熊本市に対して戸籍法に基づき申請がなされ、熊本市において戸籍が作成され、乳児院に委託される」。
「年間約1,000件の相談(電話相談を含む)のうち、自分で育てることにしたが235件、特別養子縁組が190件、乳児院に移行が28件と、計453人の命が救われた」と。
さらに「他人に妊娠出産を知られたくないという思いの強い人が来るのだから、匿名での受け入れは必要」「(匿名では受け入れてくれない)と誤解されていないかが、むしろ心配です」と、その心情を語りました。