北沢杏子のWeb連載
第128回 私と性教育――なぜ?に答える 2014年10月 |
次世代に伝えたい「ジェンダーの平等」と「選択的夫婦別姓」制度
先日、私が仕事の拠点としているアーニホールに、ある地域の小・中学校養護教諭の方々が研修に来ました。その事前の質問に、「男女混合名簿は、なぜ必要なのか?混合名簿だと身体検査のたびに男女別に組換えをし直さなければならず、手間がかかりすぎる」というのがあり、1980年代に私たち女性が闘い、獲得した「ジェンダーの平等」の意識が、まったく薄れてしまっていることに驚きました。
そこで、現在、講座を開いている看護専門学校の学生たちに、「あなたたちは、いつから男女混合名簿になった?」と訊くと、「そういえば、高校時代からだったかなぁ」と、これも無関心といった様子。そこで、私は語りかけました。
かつては、五十音順に男子が先、女子が後に姓名が呼ばれ、男子が先に女子が後に並ばされた。その習慣が、小学校から当たり前のように続いていくうちに、それぞれの意識の中に刷り込まれ、やがて結婚の際も(厚生労働省の統計によると)96%の女性が、男性の姓に入籍している。
民法で夫婦同姓が規定されているからとはいえ、自己のアイデンティティである生まれながらの姓を惜しげもなく捨てることに、何の違和感も感じていないのは、なぜか?「自己認識の確立と姓名について考えてみましょう」と。
その例として、私の友人の中には、医師や弁護士としての著名人が何人かいるものの、離婚後も○○医院とか△△法律事務所とか、(その名称で知名度を上げてきたため)元の夫の姓の看板で続けざるを得ないと嘆息を洩らしている。
また、一般の企業で働いていた友人の中にも、結婚して姓を変え、夫の転勤に従って転々と居住地の住所を変えた末に、離婚して旧姓に戻ったため、「宙に浮いた年金」の当事者となり、「定年後、年金を受給できないケースも少なくないのですよ」と話し、女子学生たちの将来のために、「選択的夫婦別姓」の意義を説いたのでした。
安倍晋三首相は「女性が輝く社会の実現に向けて」などと、女にとっておいしい発言を繰返し、改造内閣に過去最多の5人の女性を入閣させました。
が、うち3人は旧姓を使用しています。松島みどり法務相は、通称として旧姓(戸籍上の姓は馬場)を使っていることで、「姓の併用で不便を強いられている」と実感したらしく、『選択的夫婦別姓』を進めたい考えのようです。
一方、山谷えり子拉致問題担当相(戸籍上は小川)と高市早苗総務相(戸籍上は山本)は通称を使いながら、「夫婦別姓」には反対! その理由を「子どもの姓の安定性を損なう可能性があるから」と主張しています。
かつて法務省は、1996年、2010年の2回、「選択的夫婦別姓」制度導入の民法改正案を準備したのですが、これに対し保守系議員ら(安倍晋三氏もそのメンバー)から、「家族の崩壊を助長する」「日本の伝統を壊す」などの反対意見が噴出し、結果、お流れになって今日に至っています。
山谷えり子氏は有村治子女性活躍担当相と共に、この2010年の「選択的夫婦別姓に反対する大会」に参加しており、男女共同参画反対の政治団体『日本会議』を支える議員懇談会のメンバーでもあるので、夫婦別姓制度など真っ向から反対と決まっています。
5人の女性閣僚の中で、小渕優子経済産業相は、夫が小渕姓に入籍したとか。故・小渕恵三元総理の娘である優子氏の知名度のために妥協(奉仕?)したのか?
男性が姓を変えた後の「日常的な不便さ」について、ツイッターでつぶやいてほしいものですね。
国連の女性差別撤廃委員会は、このような選択的夫婦別姓の導入に消極的な日本の政府に対し、すみやかに導入を実施するよう、何度も勧告してきています。
さらに、男女平等の度合いを示す「世界経済フォーラム」の男女格差報告(2013年版)も、日本は136ヵ国中105位と指摘。その理由を「(日本は)ジェンダーの平等意識が行き渡っていないことが、結果的に“(女性の)競争力の弱い国”になっている」と糾弾しています。
安倍晋三首相の提唱する「女性が輝く社会の実現」への第一歩は、まずは選択的でもいいから「夫婦別姓」制度の確立、男女雇用機会均等法の実現化であり、教育の立場からは、ジェンダーの平等を基本とした性教育の推進に他ならないと、私は考えているのですが……。