北沢杏子のWeb連載
第131回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年1月 |
男子への性教育―妊婦さんの体験学習を観る―
東京の私立小学校(男子校)6年生対象の「性教育」の授業を観に行きました。テーマは『マタニティマーク』、指導は保健・体育の男性の先生です。私は、年に何回か、全国各地の小学校に性教育の授業をしに行きますが、男女共学校がふつう。男子校の性教育で、しかも“マタニティマーク”がテーマというのですから興味津々。
教室正面の黒板には、私が提供した、アーニ出版制作・発行の大きなイラスト教材が貼ってあります。さあ、どんな授業が始まったと思いますか?
■「マタニティマーク」―ぼくにできることは?
まず先生が見せたのは、マタニティマーク。「これ、何だと思う?見たことある人は?」の質問に、40人学級の8割の児童が手を挙げました。続けて「名称を知っているかい?」に、1人の子が立って「マタニティマークです」と答えたのにはびっくり。
先生は、「電車の中などで、このマークをつけている女性を見たら、妊娠しているってこと。席を譲るなど、親切にするのがふつうだよね。ところが……」と、眉をしかめて「乗客の中には、“一日中、会社で働いて疲れてるんだ、ふざけんな”とか、“席を譲ってほしかったら、ボーっと突っ立ってないで、はっきり云えよ”と言う人もいるらしい」。「また、妊婦さんの前で、平気でタバコを吸う人もいる……これなどは、おなかの赤ちゃんの健康にも悪いよね」と、社会一般の人びとの無理解について話しました。
■妊娠初期から出産までの学習―
次に、黒板に貼った教材の、妊婦さんのおなかに、マグネットつきの胎児の絵を順に貼り、妊娠初期の“吐き気”をともなう“つわり”や、下腹部の違和感などについて説明。「初期には、こんなふうに(と、教材を指しながら)お腹も目立たないので、周りの人も、このマークをつけていなければ気がつかないんだよ」。
さらに、次々と大きくなっていく胎児の絵を貼り、妊娠40週目(出産予定日)近くの妊婦さんの、体重3,000g、身長50cmの赤ちゃん、それに胎盤や羊水も入ったお腹を支える大変さを「体験してみよう」と、看護大学から借りてきた妊婦体験ジャケットを、1人の児童につけさせました。
「うーん、重い。床に落ちている物が拾えない」と、その子は汗びっしょり。
そこへ、養護教諭が加わりました。私が持参した「うまれたばかりのあかちゃん人形」をエプロンの下にしのばせて。
私は、あかちゃん人形が生まれる様子を見せながら、「これが胎盤、500gもあるのよ。生まれたら(胎盤につながる)へその緒を切ります。1週間ぐらいたつと、切ったあとのへその緒が、カラカラに乾いてポロっと、とれる……そのとれたあとがおへそ。みんな、おへそある?」「あるよーん」で、クラス中が大笑いして、40分の授業は終りました。
■子どもたちの感想文
後日、送られてきた感想文には、「妊婦さんのことは、今まで考えたことがなかったので、マタニティマークを批判している人にも、こういうことを教えてほしい」「妊婦さんの“つわり”というのが、苦しそうだと思った。ぼくのお母さんも、そういうことを経験しているのだから、妊婦さんを大切にしなければいけない」などがありました。
「将来、もし自分が父親になったら、妊娠中の妻にしてあげたいことは?」の設問には、「家事を手伝う」「悩みごとをなくしてあげたい」「心配そうなときは、なぐさめてあげる」と、優しい心遣いが書かれてありました。
■指導案にみられる「授業のポイント」
この日の先生の「指導案」には、こう綴られてあります。
「40週間にわたって胎児を育み、出産を担う女性。妊婦の苦しみを知ることを通して、今の自分にできること、将来の自分ができることを考える」と。
私も初めて男子対象の性教育の実践を観ることができ、また、男性の先生の「いのちの大切さ、ジェンダーの平等へと導く指導のあり方」に、感動したのでした。
とはいえ、1人の児童の感想文のおわりに、「どうすれば妊娠しますか?」というのがあって、「困ったな」という表情の先生。次の「いのちの学習―性交・受精・妊娠について―」は、どう説明するのか?楽しみですね。