北沢杏子のWeb連載
第133回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年3月 |
「こうのとりのゆりかご」の現在と、ドイツ「内密出産法(法律)」施行
■「ゆりかご」死児遺棄、「自宅出産は危険」と検証会議が警告
1月20日(2015年)、生後間もない男児の遺体を「ゆりかご」に置いたとして、母親が死体遺棄の有罪判決を言い渡されました。
“ゆりかご検証専門部会”(以下 検証部会)は検証の結果、つぎのような提言を行っています。「母親が定期的な妊婦検診を受診して、医療機関で出産していれば、男児は死亡せずにすんだかもしれない」、「行政や医療機関は、妊婦検診を受けないままでの出産や自宅出産の危険性を広く周知させると同時に、相談窓口の対応の改善を!」と。
検証部会は更に、「ゆりかご」に子どもを預けざるを得ない状況に追い込まれた母親や子どもを守るための具体的なシステムを検討する必要があるとして、ドイツの『妊婦援助および内密出産法』(2014年5月1日施行)を、検討の対象のひとつとして挙げています。
■ドイツの『妊婦援助および内密出産法』とは―
そもそも、2007年5月10日に運営を開始した「ゆりかご」発想の発端は、熊本市 慈恵病院の蓮田理事長が、ドイツ・ベルリンの「ベビー・クラッぺ(あかちゃんの扉)」を視察して、日本にも必要!と考え、「養育できない乳幼児の一時預かり」と24時間電話相談を併せた施設です。
ドイツには古くから、修道院付属の孤児院の歴史があり、蓮田理事長が視察した当時は、全国に80ヵ所の「ベビー・クラッぺ」が運営されていました。
2009年11月、ドイツ倫理審議会は、連邦参議院に「ベビー・クラッぺ」および「匿名出産」を廃止するよう勧告。その結果、2013年5月1日に、上記の『妊婦援助および内密出産法』が発効されました(施行は2014年5月1日)。
同法の目的は、医療施設以外での密かな出産をなくして、生まれた子どもの遺棄・殺傷を防止すること―としています。その内容は、
@全国に、匿名の妊婦援助テレホンサービスを設置。カウンセラーが無料で24時間対応する。
A妊娠を内密にしたい女性は、妊娠中も出産後も、全国1,600ヵ所の相談所でカウンセリングを受けることができる。
B葛藤状況にある妊婦は仮名で、助産施設(または助産師によるケアを受けながら自宅)で、出産することができる。
Cただし、女性はあらかじめ、実名を相談所に届け出なければならない。相談所は、女性の実名を厳封し、連邦上級官庁の「家族・市民社会局」に郵送。ここが保管する。
D子どもが16歳になった時点で、自身の出自(アイデンティティ)を知る権利として、保管されている書類から、母親の実名を知ることができる。もし、母親が差し迫った理由から、引き続き秘密を要望する場合は、実名は子どもに明かされない。
Eこの「内密出産」の準備や産後期のケアに要する費用は、本人の法的な医療保険の額に応じて連邦側が引き受ける―となっており、発行3年後(2018年)に見直しを行い、不都合な部分は改正する、と規定されています。
■子どもの「出自」を知る権利を保障せよ!
一方「ゆりかご」検証委員会は、2007年5月の運営以降、2〜2年半に1回の検証報告と勧告を公表していますが、その度に、@子どもの親を知る権利―自らの出自を知る権利を保障しなければならない。A慈恵病院は可能な限り、預け入れに来た親の相談につなぎ、子どもの身元判明に力を注ぐこと。B預け入れにあたり、実名化を前提とした上で、預け入れ者の秘密を守る方法について検討すべきだ、と勧告しています。
というのも、子どもは「ゆりかご」に預け入れられたあと、すぐに児童相談所を通して乳児院(0〜2歳まで)、児童養護施設(3〜18歳まで)へと送られて成長していくわけですが、思春期になると必ず、自分の「出自」について疑問を持つようになるからです。「母親は何処にいるのか?」「父親はどんな人なのか?」「自分をなぜ“ゆりかご”に預け入れたのか?」と。
検証会議の「実名化を前提として預け入れよ」との勧告に対し、蓮田理事長は会見※※で「他人に妊娠・出産を知られたくないという思いの強い人が来るのだから、匿名での受け入れは必要」と強調。むしろ、「“匿名では受け入れてくれない”と誤解されていないか心配だ」と語っています。
ドイツの『内密出産法』が、仮名での出産を容認しながら、(その条件として)事前に実名の届出を義務づけ、官庁が保管。子どもが16歳になった時点で、本人の「出自」を知る権利を保障する―と規定したことは、何よりも「子どもに最善の利益を!」と強調した『子どもの権利条約』に添った「法」といえましょう。次回は、自己の「出自」を知ることが如何に重要かについて詳述します。