北沢杏子のWeb連載
第135回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年5月 |
同性のカップルに、東京・渋谷区が「パートナーシップ証明書」
■日本初の「パートナーシップ証明書」条例
去る3月31日(2015年)、同性のカップルを“結婚に相当する関係”と認める『パートナーシップ証明書』を発行―という日本初の条例が、東京・渋谷区の区議会本会議で可決・成立しました(施行は4月1日、証明書の発行は数ヵ月後になる見込み)。
人間、誰だって愛する者同士が一緒に暮らしたい!なのに、同性愛者とわかったとたん、住居の賃貸契約を断わられる、重い病気で入院中のパートナーに面会に行けば、家族ではないとして病院側から拒絶される、勤務先の上司からは解雇を言い渡される、といった不都合が、今回の条例で緩和されるに違いありません(いまのところ、渋谷区在住者に限ってですが……)。
世界の15ヵ国以上※1が認可している「同性婚」とは、法的には程遠いものの、社会の差別・偏見に悩む性的マイノリティ(LGBT)※2にとっては、憲法14条・法の下に平等を獲得した、喜ばしい条例の成立でした。
早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は、「米国では※3、自治体が同性をパートナーと認める制度が起こり、同性婚の制度化に広がった。渋谷区の動きが広がれば、日本も法的制度に変わる可能性がある」と語っています。
■「同性婚」と「パートナーシップ証明書」の違いは?
「パートナーシップ証明書」で可能なのは、家族向け区営住宅の入居、勤務先での家族手当の支給、介護休業の取得、パートナー入院時の面会・手術の同意書へのサイン、各種保険の受取人をパートナーに指定できる、などで、「同性婚制度」ならできる法律婚、税金の配偶者控除、遺産相続などは不可です。
次に、「パートナーシップ証明書」を受けるには―渋谷区在住の20歳以上の同性のカップルであること、互いに後見人とする公正証書の提出が、義務づけられています。
加えて、条例には「区内の業者は、この証明書に最大限の配慮をしなければならない」とあり、「条例の趣旨に著しく反する行為(就労者の配転、解雇など)を繰返した場合、区は是正勧告をした上で、事業者名他を公表する」としています。しかし、条例作成の過程で、桑原敏武区長の政治手法が「厳しすぎる」、「強引」、「乱暴」など、賛成側の議員からも批判が出たため、“事業者名他を公表しないように求める”付帯決議をつけて可決されたという経緯も明らかになりました。
■安倍内閣および自民党議員らの反応は?
一方、安倍晋三首相は、渋谷区の施策案が公表された直後の3月18日、参院本会議の質疑応答の場で、「“憲法24条 ”に婚姻は両性の合意のみに基いて成立するとある。同性婚を認めるために憲法を改正すべきか否かは、わが国の家族のあり方の根幹に関わる問題! 慎重な検討を要する」と述べ、自民党有志による「家族の絆を守る特命委員会」も、「憲法24条の“両性の合意”の両性とは男女のことだ」「同性愛は公序良俗に反する」と内閣の意見に諸手を挙げて賛同。
これを受けて、性的マイノリティへの差別解消を目指す超党派の国会議員連盟(30名)は総会を開き、「内閣および自民党内には“伝統的な家族観を重んじる考え”が根強い。同性婚の法制化を急ぐと反発を招く恐れがあるから、性的マイノリティへの差別を人権問題としての活動から開始して、徐々に理解を深めるほうが得策」と決定したとか。
まだまだ、前途多難といった感じですね。
■東京・世田谷区の同性愛者ら、区長に「要望書」を提出
4月5日(2015年)、世田谷区の区議会議員上川あやさん(47)と世田谷区在住の同性カップル16人が、住民票と納税証明書を持参の上、保坂展人区長に要望書を提出。要望を受けた区長は、「渋谷区のような条例という形ではなく、区長判断でできることを考えている。可能な限り早く示したい」と返答しました。
区議の上川あやさんは、昨2014年7月、私が代表を務める「性を語る会(1986年設立、会員国内外に500名)」の第106回シンポジウム『すべての人が住みやすい社会をめざして』のパネリストとして、その苦渋に満ちた性同一性障害者※4としての半生を語ってくださった方です(上の写真参照)。
十数年前、「自分のアイデンティティの、いちばん根っこのところで嘘をついて生きていくことはできない。自分を取り戻そう!」と決意。シンガポールの国立大学病院で性別適合手術を受け、MtF※5として戸籍も男から女へと改訂。2003年に世田谷区区議として初当選し、その後も連続当選して、今期も当選という知的で行動的、決断力に優れた美しい女性です。
次回は、渋谷区の「パートナーシップ証明書」がきっかけとなって、ばたばた動き出した東京・五輪委員会や、文科相の教職員への「性的マイノリティ」研修促進について述べましょう。
※1:2001年オランダを皮切りに、03年ベルギー、05年カナダと増え、現在15カ国以上
※2:レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字
※3:米国全50州のうち、33州が同性婚を認めている
※4:GID(Gender Identity Disorder )
※5:Male to Female=身体的には男性だが性自認が女性