北沢杏子のWeb連載

136回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年6月

 

教職員への「性的マイノリティ」の研修を!

■どうする?5年後に迫った東京・五輪での対応―
 昨2014年のソチ五輪では、ロシアの“同性愛禁止法”は差別法だとして国際的な批判を浴び、オバマ大統領他ヨーロッパ各国の首相が開会式を欠席しました。
 これを受けて同年12月、国際オリンピック委員会(IOC)総会は「オリンピック憲章に、性的指向による禁止を盛り込む」と決議・決定をしました。
 2020年に五輪を迎える日本の社会が、性的マイノリティにどう対応しているのか?が問われることは必至。渋谷区の「パートナーシップ証明書」発行がきっかけとなって、舛添要一東京都知事をはじめ、オリンピック委員会は、基本計画の理念の具現化の必要に迫られ、神経をとがらせているようです。

■渋谷区の「パートナーシップ」条例に、あわてた文科省
 あわてたのは、東京・五輪委員会だけではありません。文部科学省は、2002年の「人権教育・啓発に関する基本計画」や、2012年の「自殺総合対策大綱」で、“性的少数者等への支援”に言及してきたものの、学校現場での具体的な取り組みは、一向に進まず、今日に至っています。
 当事者団体による対象者600人へのインターネット調査では、性的マイノリティ(LGBT)※の70%が学校時代にいじめに遭い、66%が“自殺を考えたことがある”と報告されており、「自殺未遂のリスクは、異性愛者の6倍に達する」との調査結果を提出しています。
 さらに、専門家や民間の調査による性的マイノリティの児童、生徒へのいじめや自殺の問題が繰返し指摘されてきたにもかかわらず、文科省のお題目を唱えるだけの「計画」や「大綱」では、学校現場に浸透しなかったためと思われます。
 というわけで、まさに、学校での対応は“待ったなし”の状況。そこで、文科省も慌てて「LGBTの児童・生徒が、いじめや差別に苦しんでいる現状」を、学校現場に周知させると同時に、人権教育としての取り組みを促すべく動き始めました。

■教職員への「性的マイノリティ」の研修を!
 3月2日(2015年)、下村博文文科相は参院予算委員会で、性的少数者について「教職員が正しい知識を持ち、子どもたちのいじめや自殺の未然防止を進めることは重要課題だ」と、教職員の、対象児への支援の必要性を強調しました。
 その上で、文科相がこれまで「性同一性障害者“等”」という表現を使ってきたため、性的少数者全体ではなく、ごく一部を指摘するように受け取ったということなら、文言について検討したい」と、用語の統一に取り組む決意を述べました。
 これに対し、日高庸晴・宝塚大看護学部教授(医療行動科学)は、「同性愛を、性同一性障害(性別違和※※)の延長上の概念と誤解している教職員が多いなど、学校現場への啓発が遅れている。そればかりか、性的指向を嘲笑の対象にするなど、一部の教職員の言動で傷つく子どもも少なくない。すべての教職員が正しい知識と対応を身につけるよう学校現場での研修を急ぐべきだ」と忠告しました。
 電通総合研究所が、20〜59歳の男女約7万人を対象とした調査では、LGBTと答えた人は5.2%となっています。つまり児童・生徒の20人に1人はLGBTであることを教職員は認識し、その対応についての研修を行うべきでしょう。

■サンフランシスコ市教育委員長にインタビュー
 私の取材メモには、1993年5月24日、Gay(男性同性愛者)でサンフランシスコ市教育委員会・委員長のトム・アミアーノ氏へのインタビューの記録が残っています。委員長室の机の上には、彼とパートナーのティム氏(小学校教職員)、そして養子の幼稚園児の家族写真が、さり気なく置いてありました。彼が最も力を入れているのが、ゲイとレズビアンの教師によるT・T(チーム・ティーチング)を、市の各中学・高校に派遣していることでした。

 翌日、彼の紹介で市内の中学校の課外授業を参観。自分の性的指向に気づいて悩む思春期の男子・女子生徒20人ほどが集っています。ゲイとレズビアンの先生は、それぞれが思春期時代をどう乗り切ってきたか?を語り、まずは自分を受け入れること、そして友人や親にカミングアウトすること、ホモ・フォビア(同性愛嫌悪者)の連中にいじめられたら、専門のサポーターを紹介するから相談に行くように……など、きめこまかな情報提供もしていました。
 最後に、それぞれが“家族の写真”をみせながら、「男性同士で家族をつくる場合、子どもがほしかったら児童相談所を経由して、乳児院や児童養護施設の子どもを養子に迎えることができるんだよ」「女性同士の場合は、第三者の精子で体外受精をして妊娠・出産ができるのよ」と説明。女子生徒たちが、わぁっと盛り上がっていました。
 このゲイ・レズビアンのT・Tは、学校現場の教職員対象の研修も具体的に行っており、教育教材も提供していました。私が共同代表を務めるアーニ出版でも、本年度の新教材に「LGBT」を加えたんですよ!

※:レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字  

※※:日本精神神経学会は2015年、「性同一性障害」の診断名を「性別違和」に改めた。

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