北沢杏子のWeb連載
第138回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年8月 |
いまどきの男子へのメッセージ 健康な精子を造ろう!
―岩室紳也先生との対談―そのT
去る7月3日(2015年)、岩室紳也先生(泌尿器科医・ヘルスプロモーション推進センター長)が、私が仕事の拠点としているアーニ・ホールにお越しくださって、「いまどきの若い男子へのメッセージ」をテーマに対談を行いました。
以下はその記録です。
■いまどきの若い男子への性教育・性情報提供が不十分!
岩室 近ごろ、若い男性がセックスをしなくなった(セックスレス)とか、マスターベーションの正しい仕方を知らない、といった問題が目の前に現れるようになってきました。
北沢 それに、最近は晩婚化になって、35歳過ぎの妊婦さんが、全妊婦数の1/4を占め、不妊や流産で悩む事態が社会問題になってきました。そんな中で、その原因と言われるのが卵子の老化です。じゃあ、男性側の精子の老化はないのか?と思って、いろいろな資料を読んでいるところです。
岩室 まず、なぜ今まで、男性の精子の老化が問題にされてこなかったのか?“80歳になって子どもを作った”という男性の話を聞きますよね?
北沢 ええ、画家のピカソとか……。
岩室 そう、20代で作られた精子でも、その精子の全部が全部、妊娠にいたる精子ではないんです。精液に含まれる精子の割合は個人差がありますが、妊娠させる能力がある精子が1個でもあれば妊娠させる力があり、実際に妊娠させるから、問題にならない。それに比べて女性の場合は、排卵される卵子は1個だけなので、影響が大きいけれど、精子は数が多いので、多少だめな精子が射出されても、妊娠させる能力のある精子が残っていれば、大丈夫なんですね。
ところが最近、晩婚化に伴い、子どもを作る年齢が男女とも高くなって、この精子の老化の問題が言われるようになりました。北沢さんは、「老化」という言葉から受けるイメージに、どんなものがありますか?
北沢 体力の低下、でしょうか?
岩室 そうですね、その体力が落ちていくときに、基の原因になるのは何かというと、血管が劣化して血流が悪くなってくる―動脈硬化が起きたり、心臓病が出たりします。
実は、精子を作るところにも血管が走っており、そこの血管が劣化して血流が悪くなってくると、精子を作る力も落ちて、精子も悪くなってきます。つまり、「精子の老化」というよりも、「精子を作るところの老化」によって、作られる精子の数も減ってくるし、作られた精子に異常がある割合も高くなってきます。ですからこれは、「精子の老化」というよりも、「精子を作る機能の老化」であると、僕はみています。
北沢 ナットク!です。そもそも、私が精子について研究しようと思ったのは、不妊治療をする場合、女性ばかりが負担を強いられていることなんです。35歳以上で妊娠した場合、「出生前診断」でいろいろ調べられたり、排卵時に使う排卵誘発剤の副作用や、腹部を針で突くことによる出血、癒着などのリスクがあったりします。
■なぜ不妊治療は、女性ばかりが負わされるのか?
北沢 私は、不妊治療の検査を受ける時は、卵子を調べると同時に、男性も精子を調べてもらうべきだと思うのですが、男性は、なかなか、妻と一緒に検査を受けたがらない。どうしてでしょうか?
岩室 それはまさしく、不妊の原因は女性の側にあるという、社会的刷り込みですね。もう一つは、男はプライドの生き物なので(笑)、自分が不妊の原因だと言われてしまうのを避けようとします。だから、「まず、きみが調べてもらえ」と、妻に言うわけです。
北沢 ムッ、ムッ……!
岩室 男性への性教育というか、性の情報提供が不十分だと思うんです。これからの「不妊治療」は、女性だけでなく、男性も精液検査をして、精子にどれだけ妊孕力があるかを調べる必要があります。
北沢 ところが、日本初の教育書といわれる貝原益軒※の「和俗童子訓」を読むと、「嫁して三年、子なきは去る」なんて。不妊はずっと昔から、女の側にあるとされてきたんですよ。
岩室 それは前時代的な考え方で、あくまでも、不妊は男女両方で考えなきゃいけないし、私からのメッセージとして伝えたいことは、「男女共に不妊になるんだから、その前に予防しよう」、「子どもが欲しければ、早めに作りなさいね」ということです。
北沢 そうですね、せめて高校卒業までには、「精子も卵子も老化する」ということを教えて、「子どもが欲しいなら、30歳前後までに産みましょう」という、ライフプランについて考えさせる教育が必要ですよね?
岩室 大賛成です。ではつぎに、基本的なことを確認しておきましょう。(人体図を示しながら)精子はこの「精巣」というところで作られるのはご存知ですね。では、精巣で精子が作られるためには、何が必要か?最近の若い人の間で問題なのが、栄養失調なんです。
北沢 えっ、栄養失調ですって!
岩室 はい。三食きちんと食べていない若者が多いんです!
(次号につづく)
※:かいばら えきけん。1630〜1714年 江戸時代の本草学者、儒学者。