北沢杏子のWeb連載
第142回 私と性教育――なぜ?に答える 2015年12月 |
スマホ世代の育児のあり方―これでいいのか?「スマホ子守り!」
現在、子どもたちのネット利用の低年齢化が進んでいます。内閣府の「青少年のインターネット利用環境実態調査※1」によれば、小学生53%、中学生79%、高校生96%が、スマホ、タブレット、パソコン、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機などを使ってネットを利用しており、スマホによるネット利用時間も、小学生1時間、中学生2時間、高校生2時間半となっている。
……と、ここまで書いてきたら『園児の教材、今やデジタル』のタイトルの報道が飛び込んできました※2。「タブレットの端末を使った教育」が、幼稚園や保育園まで広がっているとのこと。園側では「小・中学校の授業での活用が進む中、幼いうちから慣れさせる狙いがある」と主張。これに対し、幼児の端末使用への害を心配するのは、保護者たちです。情報セキュリティー会社“デジタルアーツ”が、0〜9歳の母親たちに聞いたところ、7割以上が「長時間使用で依存症になる」「視力低下、寝不足、不眠症の心配」を挙げています。
この調査が、0〜9歳の保護者を対象にしているのが不可解でしたが、つい最近、私も、ベビーカーに乗せられた幼児が前面に固定された大判の乳幼児用iPadに向かって指を動かしているのを目撃。若い母親はベビーカーの横に立ち、自分もスマホをツーツーやりながら、無言で“お上手、お上手”と幼児の頭を撫でている。親も子もネットの世界に浸り切って、コミュニケーションのひとかけらもないこの光景に驚かされ、0〜9歳の母親対象の調査も納得!でした。
というのも最近、乳幼児が泣きやむアプリや、悪いことをしたとき叱ってくれるアプリも販売されており、これを利用する子育て中のママが急増しているそう。
地域のホームドクターとして幅広い分野での診療、相談に対応している澤田こどもクリニックの澤田雅子院長※3は、次のように警告しています。「子育て中の親、とくに乳幼児を育てている母親がスマホに多くの時間を取ることで最も問題となるのは、子どもとのアイコンタクトがなくなることです!」「母親がスマホに目を向けている時間が長くなれば、あかちゃんの目を見て声をかけたり、あやしたりする時間が減ってしまいます。その結果、私(澤田医師)が乳幼児に予防接種を行う際、あかちゃんの目を見て“がんばろうね”と励ましのメッセージを送るのですが、それをキャッチするあかちゃんがいる一方、そのメッセージが届かないあかちゃんや、そもそも私の目を見ようともしないあかちゃんも、少なからずいるのですよ」と。
母親が子どもとアイコンタクトをとらない家庭の子どもは、目で表現する意味が理解できないまま成長します。将来、コミュニケーション障害にもつながるのではないか?「スマホに子守りをさせないで!」と、澤田医師は強調しています。
私はこれを脳の発達から警告したいと思います。生まれたばかりのあかちゃんの脳の重さは僅か350gと軽く小さい(グラフ参照)。というのも、これ以上重かったら、つまり頭が大きかったら、母親の狭い腟口から生まれてくることができないからです。しかし新生児の脳は、出生後1年間で急激に発達し、思春期には成人の脳の重さ1300〜1400gの90%に、そして20〜26歳でピークに達します。
私たちの体の細胞は、生まれたときには2兆個しかありませんが、成長と共に増え続け、20歳を過ぎるまでに50兆個にも達します。
それに比べて大脳の神経細胞は、生まれた時に、すでに140億個も備わっており、この数は25〜26歳ころまで変わりません。細胞の数は変らないのに、頭の重さが350gから1400gへと重くなっていくのは、その内容が充実していくからです。
神経細胞は体の細胞と違って、細胞体から沢山の突起(枝)がのび、枝分かれして発達していきます(グラフ参照)。そして、その枝と枝がかかわりあい、神経伝達物質によって情報を伝えたり、受け取ったりして知能が発達していくのです。
出生直後から2歳までの神経細胞の急激な発達を知れば、乳幼児にスマホで子守りをさせ、親子のコミュニケーションを面倒という、いまどきの母親は、わが子の脳の発達に決定的なダメージを与えていることを知るべきでしょう。
※1 内閣府2014年度調査 ※2 2015.10.16 朝日新聞 ※3 子育て支援のための情報誌「母子保健」2015年11月号