北沢杏子のWeb連載
第144回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年2月 |
喫煙問題最新情報 そのU 「たばこ規制枠組条約」とは
■中学・高校生対象の教材「喫煙の害」制作にあたって―
北沢 私はいま、中・高生対象の教育教材(DVD)『思春期女子への健康メッセージ』『思春期男子への健康メッセージ』を制作していて、内容は、“危険!たばこ・アルコール・危険ドラッグ・ネット依存”という、若者が依存に陥る危険性のあるものを取り上げています。
渡辺 それはグッドアイデアですね。
北沢 で、こちらで頂いたWHO(世界保健機関)の『たばこ規制枠組条約』のポスターの中から、3枚ほど写真と警告文を使わせていただいてもいいでしょうか?
渡辺 はい。この写真は、WHO指定の「喫煙と健康・研究協力センター」、国立がんセンタータバコ政策研究プロジェクトが出しているポスターの中の1点です。「たばこ規制枠組条約」を批准した国は、タバコの箱の両面の50%以上、最低でも30%を使って、このような写真と警告文を入れる義務があるんですよ。
北沢 すごーいインパクトのある写真ですね。中・高生男子にこれを見せたらショックでしょうね?渡辺 警告バツグン!でしょう? 喫煙によって血管が収縮して、血液の循環が悪くなり、勃起不能の原因になります。おちんちんが、起たなくなってしまうわけです。
北沢 了解です!そもそもペニスの中はスポンジみたいな海綿体状のものでできていて、性的なマンガとか画像を見て脳が興奮すると勃起中枢に伝わって、どっと血液が海綿体に流れ込み、固く立つ仕組みになっているんです。タバコのせいで血管が収縮して血液の循環が悪くなれば、勃起しようにもたたない!
渡辺 そのとおり!さすが性教育の先生ですね(笑)。それに、勃起機能の障害というのは、将来、子どもをつくって育てようという生殖能力にかかわることなので、重大な問題です。しかも、その血液が、ニコチンや一酸化炭素、その他たくさんの化学物質の影響で、汚れてしまっている。
北沢 精液や、精子そのものへの影響もあるのでしょうね?
渡辺 そう、精子を作る精巣にも、血液が充分供給されない、汚れているとなると、悪い影響があることは、誰でもわかりますよね。
北沢 女性としても、子どもが欲しい!となったときに、そのような精子や精液を受け取るのは、イヤですね(笑)。
■女子の喫煙の害には―
北沢 女子への喫煙の害には、この写真と警告文を使いました。
渡辺 いいですね。タバコを吸うと、女性が最も嫌う、お肌の“シミ・シワ”が増えます。喫煙が習慣になっていくと、このポスターの写真のように、肌が荒れてきます。
北沢 シワシワのリンゴ!女の子が見たらキャーッ!ですね。
渡辺 本来なら酸素を運ぶはずの血液が、たばこの煙の中の一酸化炭素と結びついてしまいますから、肌の細胞に必要な酸素が充分に供給されなくなり、栄養も足りなくなります。
北沢 将来の、妊娠・出産に対する影響などはどうでしょう?
渡辺 これも、外国のタバコのパッケージに表示されている胎児の写真です。妊娠している女性がタバコを吸うと、へその緒を通して送られてくる胎児への酸素供給が激減して、いわば呼吸を止めてしまうことになります。将来、健康なあかちゃんを産みたいと思うなら、妊娠してからでは遅いので、はじめからタバコは吸わないことですね。
■最新情報―微小粒子状物質(PM2.5)とは?
渡辺 中国の大気汚染で、いま問題になっているPM2.5(微小粒子状物質)ですが、最近になって、タバコの煙の中にも、たくさんのPM2.5が含まれていることがわかってきました。タバコの煙が充満している居酒屋などには、PM2.5が溢れているのです。
政府やメディアが、もっと、北京の大気汚染の問題だけではなく、室内のタバコの煙とPM2.5の関係を取り上げるべきですね。PM2.5というのは、肺の奥まで入り込んで、喘息や気管支炎などの呼吸器系疾患などを引き起こすということですから。
それから“愛煙家”という言葉がありますが、タバコの煙を愛している人などほとんどいません(笑)。この言葉は日本語だけです。英語圏では喫煙者か非喫煙者、smokerかnonsomokerに当たる言葉しかない。そこで、かつての日本専売公社、現在のJTが、意図的に作ったのです。愛犬家とか愛妻家とかに並ぶような、プラスイメージの言葉を作った。現在でも、JTの機関誌などを見ると“愛煙家”という言葉が随所に出てきます。
そこで私は、“愛煙家”ではなく、“哀煙家”という字をあてています。「哀しき煙の囚われ人」です。それから、嗜好品ではなくて“死向品”です。「死に向かう品物」ですからね(笑)。
北沢 「喫煙者とはつきあいたくない」という調査があるとか?
渡辺 法政大学の学生による、喫煙に関するアンケートです。
「たばこを吸う異性とは結婚できない」との回答が同大男子学生の69%、女子学生は61%に上った。主な理由として「子どもへの悪影響」「臭い」「健康面」など、嫌煙の風潮を反映していますね。
「赤い糸 焼いていたのは たばこかも」なんて句も掲載されていました(笑)。タバコが失恋の原因だなんて、面白いですね。
北沢 私はいま、看護専門学校の学生対象の講座を行っているのですが、学生たちが望まない妊娠をしないために、“コンドーム いやというなら さようなら”と教えています(笑)。次回からは、“禁煙が できないならば さようなら”も加えますね(笑)。