北沢杏子のWeb連載

147回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年5

 

高校生の政治活動「届出制」と、高校教科書「検定」

今夏(2016年)の参院選から、18歳以上が選挙権を持つ「公職選挙法」が実行されるので、若者たちは勇み立っています。自分たちが初めて、主権者としての権利を行使できることになったのだから。文部科学省は昨年10月、「校外のデモなどの政治活動参加を解禁する」と、公表したにもかかわらず、今年1月になって、どこからの圧力だったのか、「届け出制」を容認しました。

 圧力の例を挙げると、昨年、山口県のある高校で行われた「安保法案」についての授業に対し、某自民党県議員が県議会の席上、「教材に朝日新聞と日経新聞だけを使用したことは、政治的中立に問題がある」と発言。教育長も、ただちに同調したとか。このように教員たちが工夫して政治教育を試みても、教育委員会が圧力をかければ、学校側は萎縮して政治の授業はできなくなります。

 折も折、愛媛県立の全59高校(分校・特別支援学校も含む)が、新年度(2016年4月)から校則を改訂。生徒がデモや集会などの政治活動に参加する際は、事前に「許可・届出」を提出することを義務化しました。愛媛県教育委員会によると、昨年12月に全県立高校の教頭ら対象の研修会で『政治活動等に対する生徒指導に関する校則の見直しについて』との文書を配布。
 その中の届け出事項のひとつに、「選挙運動・政治活動への参加」の場合、“1週間前までに届け出よ”とあり、しかも末尾には、「以上のとおり、改訂いたしました」との文言が印字されていて、学校長が署名・押印すれば、そのまま県教委への提出文書になるように作成されていたのです。

 これに対し、ある女子高校生は「選挙年齢を引き下げておいて、政治活動をするなって、意味がわからない。政府は私たちに、投票に行かせたくないの?」と、ぼやいています。林大介・東洋大学助教授は「“届け出制”があるために、生徒が選挙演説や公開討論会に行くのを、ためらわないか?生徒自身が政治や社会の矛盾について考える機会を学校が奪い、結果的に、主権者教育の充実に逆行しかねない」と警告しています。

 こうした行政の圧力に、若者たちは黙っていない。ただちに、高校生をはじめとした10代で、デモや学習会を企画する「T-ns SOWL ティーンズ・ソウル」が、参議院議員会館内で記者会見を行いました。
 「私たち10代が声を上げることで、同世代をはじめ社会全体の政治への関心を高めたい」「選挙の大切さや、選挙に行かないことのデメリットを伝えたい」「安保関連法案は、私たちが戦場に出向いて、殺し殺される対象になる法制だから、自分たちが立ち上がり、行動しなくては―」と、若者らしく意気軒昂!!! と同時に『とりまUNITE(とりあえずまあ団結)』をスローガンに運動を展開していく―とのこと。今どきの高校生って、“とりあえず、まあ、団結”なんて、面白いですね。

 そんな渦中にあって、2017年度から使われる高校教科書の検定に、計270冊が合格した―と、文部科学省が発表(2016年3月18日)。
 文科省による小・中学校の教科書検定は、しばしば報道されており、私は思わずムッ、ムッとなっていましたが、高校の教科書にまで、政府の見解の記述を求める今回の新基準は、自民党の提言を受けて2014年に導入。高校の地理歴史・公民教科書に初めて適用されたとのこと。これも18歳選挙権と連動しているとしか考えられませんね。
 そもそも、戦後の教科書検定は、なぜ始まったのか?―戦前の国民の思想統一を目的に使われた国定教科書への反省から導入されたはず。それが、またもや、国(現政権)が高校教科書の内容までチェックしようというのです。

 例を挙げれば、安倍政権が2014年に閣議決定した「集団的自衛権の行使」については、現代社会と政治・経済の全12冊が記述。検定意見が計5件もつけられました。どんな意見がつけられたかというと、政治について先生と生徒が話し合うコラムで、「日本が世界のどこででも戦争ができる国になるかもしれないね」との先生の台詞が、「平和主義のあり方が、大きな転換期を迎えているのかもしれないね」と、変更を余儀なくされたとのこと。

 18歳・選挙権によって、社会的自立への希望をふくらませる高校生に対し、それを抑圧する高校教科書の検定―日本は危ない方向に傾きつつあるあるのではないでしょうか?

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