北沢杏子のWeb連載

149回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年7月

 

LGBTの児童・生徒、「学校が辛い」― 早急に教員研修を!

L=Lesbianレズビアン
G=Gayゲイ
B=Bisexualバイセクシュアル
T=Transgenderトランスジェンダー の頭文字

■国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによる調査
2016年5月上旬、LGBT(12〜24歳の約500人)を対象に、上記が調査した結果が発表されました。それによると、学校で生徒や先生から「(同性愛者は)キモい」「生まれてこない方がよかった」「(同性間の性的接触は)HIV感染の大きな原因だから近づくな」などの“暴言を受けたことがある”と答えた人は、86%にのぼったとのことです。
 事例@:トランスジェンダーの大学生(18)は、高校時代に家庭科教師から「女性の責任は、結婚して子どもを産むこと」と指導され、辛くて保健室登校に。「養護教諭の支えがなかったら、自殺していたかも」と語った。
 事例A:ゲイの高校生(18)は、「小学生の頃、クラスの子から“気持ち悪い”と殴られ、担任に相談すると“自分で解決しなさい”と見放された。中学校では「HIVがうつる」と言われ、宿題をごみ箱に捨てられた。
 事例B:トランスジェンダーの大学生(18)は、「高校の校長に“男子の制服を着たい”と訴えたが、“おまえのわがままで学校の風紀を乱すな”と拒否された……など、察するに余りある事例ばかり。
 日高康晴氏(宝塚大学看護学部教授)は、「LGBTに対して否定的な発言をする教師がいるのは、“13人に1人”といわれる性的少数者への知識がなく、教室に1人や2人の当事者がいるとは思ってもいないからだ」「各教育委員会が、教員研修をすすめるべきだ」と主張しています。こうした世論をうけて、自民党は(憲法14条 法の下の平等に照らし)、“性的少数者への差別禁止”の見解を初めて発表しました。

■自民党政務調査会、「LGBT問答集」を発行
 ……というわけで、発行された問答集(まったく噴飯ものですが)、その一部を紹介しましょう。
Q 同性愛者から告白されたら、受け入れないといけない?
A 性的指向の多様性について理解増進を図り受け入れる社会を目指すことと、個人の恋愛感情を受け入れるかどうかは、全く別問題、断ってよい。
Q 同性婚やパートナーシップ制度については?
A 現行憲法のもとでは、“同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていない”というのが政府の立場で、パートナーシップ制度については、婚姻関係に法律的または事実上認められている権利・義務など、具体的なコンセンサスが国民にある状況ではなく、その是非を含めた慎重な検討が必要。
 そして、「性的少数者への知識の普及が進んでいない現状において、差別禁止、差別解消といった理由で規則を設ければ、一般社会が萎縮し、かえって当事者が孤立する結果を招く可能性がある」として、“法的規制は行わない”と結んであります。

■「LGBT問答集」発行、党内の“失言”を封じる狙いか?
 この問答集やパンフレットの発行は、7月10日(2016年)の参院選を控え、議員らの失言を封じる狙いもありそうだ―と、新聞にありました。昨年、地方議会で「同性愛は異常」などの問題発言があったことから、「レズ」「ホモ」などの侮蔑語を使わないようにとの指示も行った模様。前述の学校の教職員も現職の国会議員も人権意識皆無のやからと言わざるを得ませんね。
 「選択的夫婦別姓」も「合法としての“同性婚”」も、憲法24条※を理由に絶対拒否する安倍政権。もっと、当事者らの発言を、真剣に聴くべきではないでしょうか?

 本稿を書いているのは、第24回参議院議員選挙公示の6月22日、与野党の選挙戦の真最中です。街頭演説での安倍晋三首相は、「有効求人倍率は24年ぶりの高い水準だ。アベノミクスをやめてしまえば、4年前に逆戻りする。アベノミクスを最大限ふかす!」と息巻いています。
 だが、私たちは彼の腹のうちをを知っている。2013年夏の参院選では、震災復興と経済を前面に「日本を取り戻す!」と訴えたくせに、その5ヵ月後には特定秘密保護法案を成立させ、翌2014年には、集団的自衛権の行使容認を閣議決定。同じ年の衆議院選でも、「景気回復は、アベノミクスの前進しかない!」と演説し、この衆院選で多数を握ったとたん、安保法制を成立させたのです。
 今回も、彼は在任中に、憲法改正閣議決定を目指しているのが見え見え。これに対し、野党4党は、正面から憲法論争に挑んでいます。選挙権も18歳以上となった参院選。共産党志位委員長の言葉を借りれば、「(憲法9条を改悪して)殺し殺される国・日本」にならぬよう、願っています。

※ 24条ー1 婚姻は両性の合意のみに基いて成立し……

 

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