北沢杏子のWeb連載

151回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年9月

 

「性と生殖に関する健康と権利」の観点から、卵子提供・代理母を検討する!


2016年1月16日、私が代表を務める「性を語る会」主催の第109回シンポジウム『性的少数者 LGBTと語ろう!』が開催された。パネリストは、社会的弱者の弁護に立ち、数々の裁判で勝訴を勝ちとってきた中川重徳弁護士(異性愛者)と、性的少数者LGBTの方々4人、性同一性障害のお子さんを持つ母親1人の計6人である。日本社会の差別・偏見の中で今日まで生きてきたパネリストの方々の切実なリレートークに、深い感動を覚えたのだった。

■同性愛者が「子どもがほしい、家族をつくりたい!」とき 

 パネリストの一人でブラジル人のマルセルさん(ゲイ)は、「日本人のパートナーと一緒に生活しているが、子どもをもうけて幸せな家族をつくるのが夢」と語った。
 さて、レズビアンのカップルなら、第三者の精子の提供を受けて、自分の卵子に授精させれば妊娠・出産は可能だが、ゲイカップルの場合は、第三者の卵子の提供を受けた後、自分の精子で人工授精させた受精卵を、更に代理母の子宮を借りて妊娠・出産してもらわなければならない。
 このあと私は、『ルポ 同性カップルの子どもたち―アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』(杉山麻里子 著 2016年2月25日 岩波書店 刊)を夢中で読んだ。
 以下は、私の「性と生殖に関する健康と権利」の観点から、同書の一部を転載したものである。

■代理出産の光と闇
 2010年12月、あるニュースが世界を駆け巡った。英国の歌手エンルトン・ジョン(63)が“パパになった”という。同性のパートナー、映画監督のデビッド・ファーニッシュ(48・カナダ人)と、米国で“代理出産”で長男をもうけたのだ。(略)英国では報酬がからむ代理出産が禁じられているが、米カリフォルニア州の仲介業者を通じて、卵子ドナーと代理母を探し、体外授精による代理出産で長男が生まれた。その後再び、同じ代理母に依頼し、2013年1月に次男を授かっている。
 誕生から2週間後、次男を抱いたエルトンと、2歳の長男をひざの上にのせたデビッドは、こう語っている。「私たちはずっと子どもがほしいと願ってきたが、今、息子が二人いる。幸せと興奮に満ち溢れています」と。
 (略)多くの先進国が代理出産や卵子提供を禁止、もしくは厳しく制限する中、米国では代理出産を規制する連邦法はなく、19の州が認めている。卵子提供者に対しても報酬の支払いが一般的に行われ、卵子提供による出産は、体外授精のうち1割強を占める。
 代理出産を扱う不妊治療クリニックも350以上あり、米国生殖学会(ASRM)によると、体外授精型の代理出産で生まれる子どもは、2011年には1,593人と増え、市場規模も(2012年の時点で)、代理母が2,700万ドル、卵子提供は9,100万ドルとなっている。
 (略)卵子提供者の大部分は、若い大学生や大学院生だ。報酬は、6,000〜8,000ドルで、高額な学費の支払いや生活費にあてる人が多い(略)、「子どもを持ちたいと願う人を助けて、謝礼ももらえる」ことに魅力を感じて志願する学生も少なくないが、排卵を誘発する薬の副作用で、卵巣過剰刺激症候群などの健康上のリスクがあることを「十分知らされなかった」という人もいる。
 (略)また、代理出産で、羊水が母体の血中に流入する羊水塞栓症で、出産3時間後に死亡した例も公表された。
 (略)一方、NPO“生命倫理文化ネットワークセンター(CBC)”のジェニファー・ラール代表は、「(略)代理出産と卵子提供は貧困層の弱い女性や、苦学生を搾取しており(略)、子どもを生物学上の(母)親から引き離す行為を看過することはできない」と、(メールのニュースレターで)書いている。

■日本学術会議の代理出産に対する報告書
 同書から転載すると、日本学術会議は次のような報告書を提出している(2008年4月)。
 「代理母には妊娠・出産による健康への負担のほか、他人の受精卵を排除する免疫反応によるリスクが高まるおそれがある。生まれる子どもにも、遺伝情報の変化によって健康に影響が及ぶ危険性が指摘されている。代理母が貧困や周囲の圧力によって引き受ける可能性など、真の自己決定に基づいているとは断定できない点も問題視されている。

■私(北沢杏子)の観点から―
 「性と生殖に関する健康と権利」は、1994年、カイロで開かれた「国際人口開発会議」で、世界175ヵ国の政府機関およびNGO結集のもとに決定したスローガンだ。
 私は、これを妊娠・出産にかかわる女性のための、女性の健康と、女性の権利と解釈している。その観点から言えば、社会の差別・偏見に悩む性的少数者にとっての「同性婚」は、法の下の平等と権利を獲得した喜ばしい合法化だが、次に「家族をつくる」となると、前述の、女性の健康上、心理上のさまざまな問題が浮上してくる可能性がある。大いに討論したい!

 

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