北沢杏子のWeb連載
第152回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年10月 |
教育映像祭 優秀映像教材選奨 優秀賞 受賞のお知らせ
■アーニ出版制作DVD、教育映像祭・優秀賞を受賞
2016年9月9日、東京・霞ヶ関ビル・35階のホール(東海大学校友会館)で、『平成28年度・教育映像祭中央大会』が開催されました。教育映像祭は1954年に第1回が開かれ、2016年の今回で63回。長い長い歴史をもつこの教育映像祭での受賞は、私たちアーニ出版のスタッフにとっても、胸ときめかす審査※1結果でした。
1990年代の前半から2000年代前半にかけて、つまり「性教育」が学校教育の“総合学習”の一環として盛んに行われていた時代には、私が共同代表を務めるアーニ出版の新作品は、毎年、いくつもの賞をいただいたものです。
やがて、“七生養護学校(現・特別支援学校)”の知的障害をもつ児童・生徒への「こころとからだの学習」実践が、東京都議会議員らによって、「教育指導要領に準拠していない」と指弾され、裁判に発展(結果的には勝訴となったのでしたが)、これを契機に教育現場での性教育は急激に萎縮し、今日に至っています。
なので今回の中学校部門・優秀賞受賞作品、思春期の性知識シリーズ第1巻『思春期のからだの変化と性的成熟―LGBTと共に歩む時代―』(保健体育/23分)は、4年ぶりの受賞ということもあり、今後とも更に、制作意欲を湧かせる機会ともなりました。
■審査概評(「視聴覚教育」9月号に掲載)
審査概評には、「LGBTを扱った視聴覚教材がこれまでになかった。それだけに、このテーマに挑戦したことは意義がある。性教育を淡々と展開し、性教育の一環としてLGBTを取り上げると、素直に受け止められる。映像の作り方や展開に驚くような作り込みはしていない。平板に作っているからこそ、教材として使える。このような作品を作り続けることに応援をしたいものである」と、嬉しい励ましの評が綴られていました。
この作品の特徴は、脚本/演出 北沢杏子、イラスト 長谷川瑞吉、山口千歳、編集/ナレーション 北沢杏子、中西理彦と、全員アーニ出版のスタッフで作り上げたという画期的な映像教材となりました(実は、ネットおよびデジタル時代で、どこの零細出版社も経営困難という実情からですが……笑)。
では、審査委員会が指摘してくださった“淡々と性教育”のLGBTの部分のシナリオとイラストを紹介しましょう。
■性的少数者 LGBTってなに?
ナレーション: LGBTって知っていますか? この社会には、異性を好きになる異性愛の人だけでなく、いろいろな「性的指向」をもった人がいるのです。
LGBTの「L」はレズビアン、「G」はゲイ、「B」はバイセクシュアル、「T」はトランスジェンダーの頭文字です。
レズビアンは、女性同性愛者。ゲイは、男性同性愛者。バイセクシュアルは、愛する相手が、同性の場合も、異性の場合もあるという、性的指向をもつ人。トランスジェンダーは、体の性と心の性自認が一致しない人のことです。こうした人びとのことを、「性的少数者」と呼び、現在、日本には、“13人に1人いる”と推定されています。
つまり、みんなのクラスにも、LGBTの子が1人か2人は、いるかもしれない。でも、みんなは、その子たちが少し変っているからって、差別したり、いじめなんかしないよね?
国連の「世界人権宣言」にあるように、「すべての人間は生まれながらに自由であり、尊厳と権利において平等」 なのです。そう、みんな一人ひとりが、こうして生まれてきた「かけがえのないいのち」なのだから。
■思春期の女子・男子の質問は―
このDVDのラストの部分は、思春期の生徒たちから寄せられた質問を、4人の専門家※2の方々から回答して頂き、それをイラストとナレーションで、これも“淡々と性教育”をモットーに解説しました。さて、思春期の生徒たちの悩みとは?
Q1 女子:胸が小さくて恥かしいんだけど。胸の谷間が無いと、ちょっとカッコ悪いし……。/ Q2女子:部活がハードで生理がこなくなっちゃったみたいなんだけど……。 / Q3 女子:ダイエットしたら、月経が止まっちゃったみたいなんだけど、大丈夫ですか? / Q4女子:性病って、どんな病気ですか?どんなことで、うつるんですか?
Q1 男子:ペニスの先の皮がかぶっていて、心配なんだけど。/ Q2男子:マスターベーションって、1日に何回までやって平気ですか? / Q3 男子:エイズって、どんな病気ですか? どんなことで、うつるんですか?……となっています。
私は、これまでの50年間で、約200本余の映像教材を制作してきましたが、いづれの作品も、前述の先生方の指導によるものでした。古くからのおつきあいの方々で、いつも快く指導・協力して頂き、感謝しています。
……というわけで、「受賞のお知らせ」でした!
※1 学校や社会教育など教育現場の指導者、学識経験者、関係機関・団体の
代表者、各界の専門家など35名の審査委員により、6月12日〜7月29日
の期間に行われた。
※2 監修 栗原 久(東京福祉大学教育学部教授 神経・行動・薬理学)
堀口貞夫(主婦会館クリニック院長・産婦人科医)
堀口雅子(ティーンズカフェ―女の子のための からだと心の相談室・産婦人科医)、
岩室紳也(ヘルスプロモーション推進センター長・泌尿器科医)