北沢杏子のWeb連載

154回 私と性教育――なぜ?に答える 2016年12月

 

卵子・精子はもちろん、体外受精による受精胚をも凍結・融解して
“いのち”を創る生殖医療とは?   そのU


■体外受精後の「受精胚」の凍結・融解移植技術について
 世界初のヒト凍結胚移植による妊娠は1983年、オーストラリアのモナシュ大学、アラン・トラウンソンのチームにより報告された。生まれた女の子の名前はゾーイちゃん。メディアは「アイスベビー」と騒ぎ立てたが、この凍結・融解胚移植医療による出生児の比率は、たちまち世界中に拡大していった。
 ところで、顕微授精、凍結胚と並んで重要な生殖医療は「胚培養」である。胚培養とは、体外受精に成功した胚を、長い時間にわたって体外で培養すること―胚は37℃に保たれた専用の培養器の中で培養される。そして48時間後には4細胞、72時間後には8細胞へと分裂する。ふつう、顕微授精に成功してから2〜3日後のCからG細胞に分割した胚(下図イラスト参照)を、子宮内腔に移植しているという。

■排卵・受精・受精胚の核分裂・着床!の不思議
 体外受精ではない、ふつうの「性交」による受精卵が、厚く準備された子宮内膜に着床する様子を、イラストで見てみよう。









 


 

 受精した卵子(受精胚)は、C→D→E→F→G……と分割・成熟し、5〜6日かけて着床しているのがわかるだろう。
 ということは、顕微授精の場合も、細胞がぐんと増えるGの「胚盤胞」の段階まで成熟させてから子宮内腔に移植すれば、着床し妊娠する確率が高くなる。また、移植による初期流産率も低下することが証明されている。

 ところで、体外受精の胚を、体内とは環境の異なるシャーレの中で長期にわたって培養するには、体内環境に近づけるための各種培養液と、さらにエネルギー源やアミノ酸を加える必要がある。
 ここで問題なのは、各生殖医療専門クリニックで使われている効果的な培養液は、商業製品として流通されているため、その内容は企業秘密として非公開になっているのが現状だそうである。この培養液が公開されれば、生殖医療の道も大きく拓かれるのに!と、素人の私は嘆くのだが……。


■タイムラプス撮影法による「胚成熟」の観察

 そこに登場してきたのが「タイムラプス撮影」という技術だ。タイムラプス撮影とは、培養器と一体に組み込まれた顕微鏡に撮影装置を取りつけて、継続的に撮影を行う技術である。こうすれば、ヒト胚の初期発生を受精の瞬間Aから胚盤胞G(左下図参照)に至るまで継続的に撮影することができるだろう。
 とはいえ、胚の成熟には個体差がある上、前述の培養液も(企業秘密として)各クリニックで異なっているから、「体外受精後、何日と何時間が移植成功率が高い」とは、一律に断定できないのが現状のようだ。では、次の手段は?
 最近になって、受精胚の細胞分裂を持続的にモニターし、良好な胚(妊娠・出産に確実につながる胚)を、自動的に選び出す装置が開発された。とはいえ、「どの時期が良好か?」は、まだ結論を出せない段階で、生殖医療専門クリニック(日本では日産婦指定の施設)によって、左下図CからGの段階のいずれかを移植しているのが現状だとか。
 その前に、配偶子(卵子・精子)を凍結する前に知っておくべき基礎知識を知っておこう。

■不妊の原因は女性だけにあるのか?
 わが国では現在、晩婚化が進み、35歳以上の高齢妊娠・出産が全出産数の1/4を占めている。そして、高齢女性の不妊や流産の原因は卵子の老化にある、と言われてきたのだった。
 もともと、排卵のための原始卵胞は、上のグラフが示すように、生まれる前の胎生児の卵巣の中に既に200万個備わっており、この数は増えることなく、加齢と共に減っていく。初経の頃には38万個あった卵胞は、36〜40歳では6万個に、それ以降は5000個に……という具合に。
 この卵胞が成熟して、1ヵ月に1個排卵するわけだから、卵胞の数が減れば、それだけ成熟・排卵する数も減り、妊娠する確率が下がってくると言われている。つまり最近まで、「不妊は女性側の問題」とされてきたのだ。

 これに対し、日本家族計画協会会長・北村邦夫氏は次のように勧告している。「いま、高齢妊娠と染色体異常児出産の原因として、卵子の老化ばかりが問題にされているが、精子の受精能力も35歳を超える頃から衰えていく。つまり、男性側と女性側のどちらの要件が欠けても、妊娠は成立しないということを、高校の保健体育の時間に、男女必修で、科学的かつ具体的に教えておくことが必要だ」と。そこで私は即、さまざまな資料を読んで研究、わかったことを次に報告する。   (次号に続く)

資料―「AIDで生まれるということ」 
      非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ/長沖 暁子 編・著 萬書房
   「生殖医療の衝撃」石原理 著 講談社現代新書、 
   「人工授精の近代」 由井秀樹 著 青弓社、  
   「ルポ 同性カップルの子どもたち――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う」  杉山麻里子 著 岩波書店

 

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