北沢杏子のWeb連載

158回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年4月

 

性犯罪厳罰化
「強姦罪」から「強制性交等罪」へ―女子も男子も被害者に
親など監護者の、子どもへの性虐待 「監護者性交等罪」新設

■「強姦罪」から「強制性交等罪」へ―男子も被害者に!
 1907年の刑法制定以来、今日までの110年間、ほとんど改正が行われてこなかった「性犯罪」を、いま、やっと、これを厳罰化する刑法改正案が提出され、3月7日(2017年)閣議決定された。 男性が加害者、女性が被害者を前提としてきた「強姦罪」も、男の加害者による男子(18歳未満)の被害者を認め、性交に類似するわいせつ行為もこれに含めた。罪名は「強制わいせつ罪」「強制性交等罪」だ。その実例は、連日のように報道されている。

■親など「監護者」の子どもへの性暴力・性虐待の刑法も新設
 子どもへの性虐待は、家庭内でも日常的に起こっている。
 「児童虐待対応専門委員」の私のもとに寄せられた相談例は―

@小学校3年生の男子が、知らない男から「500円あげるからオチンチンに触らせて」といわれた。
A小学校4年生の女子、“お父さんっ子”で幼いころからいっしょに入浴してきたが、最近になって父親のなめまわすような視線におびえている。
B小学校6年生の担任教師(男性)が、放課後、体格のいい男子をトイレに連れていき、「身だしなみだ」といって、わき毛を剃った。
C中学校3年生女子、1年半前から同居の祖父に性虐待を受け続け、母親に言えないまま耐えている、助けてほしい。
D高校1年生女子、母親が亡くなった後、父親が変なことを仕掛けてくる。どうしたらいいか?

 今回の法改正案では、こうした家庭内での性虐待などを処罰できるよう、18歳未満の子どもに対し、わいせつ行為や性交を行った親など監護者を罰する「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」を新設。加害者の暴行や脅迫に対し、被害児が「抵抗できなかった」ため、泣き寝入りしてきたこれまでのケースも、処罰できるようになる。

■子どもたちよ、「親や親族による性虐待No !」と叫ぼう、の絵本
 「強制性交等罪」「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」新設にあたって、まずは子ども自身に、子どもへの性暴力・性虐待の実態と、その対応法を知らせなければならない。私が執筆、翻訳した、アーニ出版刊の絵本の中の1冊を紹介したい。
『ママにもいえなかった…』
 このスウェーデンの絵本「ママにもいえなかった…」は、@対象が幼児から思春期の少女までと、どの年代もが興味をそそる内容になっていること、A読者の子どもたちの気持ちを傷つけないように、登場人物をドラゴンの家族に設定し、父親による性虐待のストーリーを展開している―のが特徴だ。
 絵本を開くと、「むかし高い山の森のほら穴に、ドラゴンの親子が住んでいました」と、ドランちゃんの話で始まる。

 ドランちゃんのママが、おばあちゃんの看病で何日か家を留守にしたある夜、ドランちゃんのベッドのそばにパパがやってきて、らんぼうに ふとんをめくり、強くだきしめました。「パパはおまえを あいしている。だからこうするんだよ」パパは ささやきながら ドランちゃんのからだの上に、のしかかってきました。そして、つぎつぎとドランちゃんにはわからないことをしました。
 やがて、パパはからだをはなすと、「パパとおまえだけのひみつだよ。ママにいうんじゃないぞ」「もし、いったりしたら、あとで、ひどいめにあわすよ」と、いいのこして でていきました。
 この絵本のラストは、森をさまよい、苦しんだ数日後、森の友だちと一緒にふくろうのおばあさんに、一部始終を告白するところで終っている。「小さな友だちよ。あなたは、わるくなんかない。あなたは、自分でできるいちばん正しいことをしたんだよ。これからはもう、悲しいおもいをさせない。私にまかせて、安心おし」との、ふくろうのおばあさんの言葉で、自信を取り戻したドランちゃんの表情は輝く。

■この絵本で立ち直った女子中学生がいた!
 この絵本は、後日、中学校の養護教諭からのメールで、「親による性虐待対応に役立った」と知らされた。保健室登校だった不登校の女子生徒が、保健室に置いてあったこの絵本を読み、不登校の原因が、父親による性虐待だったことを知った、というメールである。
 この絵本により、彼女は、ふくろうのおばあさんならぬ、養護教諭によって立ち直り、自ら児童相談所に出向いて、新しい生活(父親との分離)に踏み切り、不登校を克服したという。
 「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」の新設を、広く子どもたち、保護者、教職員たちに知らせたい!

 

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