北沢杏子のWeb連載
第159回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年5月 |
国際人口会議の行動計画 「性と生殖に関する健康/権利」
女のからだは守られているか?―途上国では― そのT
■途上国の爆発的人口増加
アフリカ、アジアの特に発展途上国の因習・伝統・宗教他による「児童婚」「一夫多妻制」「女性の低就学率」「貧困」「家父長制」等によって、女たちは望まない妊娠・出産と労働、栄養失調、疾病、死亡と、現在も「不本意な人生」を余儀なくされています。
こうして、2011年10月31日、世界の人口は70億人に達しました。 1974年に、私がIPPF(国際家族計画連盟)ロンドン本部を訪ねたとき、スタッフが、世界の人口が40億人に達したこと、これをなんとか抑止するために、「世界中の妊娠可能年齢の女性(15〜49歳)に、徹底した家族計画の情報をゆき渡らせなければ」と、熱く語りあっていたことを思い出します。
ところが、13年後の1987年には50億人に、さらに12年後の1999年には60億人に、そして2011年に70億人、2017年には75億人に達すると予測されています。
国連は1974年、1984年および1994年の3回にわたり、この止どめようもない人口増加問題対処の必要性について、世界的コンセンサスをはかるための「国際人口開発会議」を開催しました。
■カイロ「国際人口会議」性と生殖に関する健康/権利宣言
3回目の1994年、世界179ヵ国の政府機関およびNGOを結集して、カイロで開催された国際人口会議は、それまでとってきた、人口の数値目標達成のための抑制政策を大改革する(下記の)画期的な規定を公表しました。
@ 途上国の少女と女性への持続的教育の達成を目指す。
A 女性が技能を身につけ、雇用につなげることで、経済的自 立を達成する。
B (上記@Aによって)女性が意思決定の選択権を持つ。
C 妊娠・出産に関する情報および保健サービスを充実させる。
なかでもCの生殖に関しては、産む、産まない、何人産むかの決定権を女性自身が持つことによって、世界の人口激増を抑制できる―と、人口抑制政策に対する行動計画を大きく変更したのです。その行動計画が、本稿のタイトル「性と生殖に関する健康/権利」です。
では、果たして、この画期的な行動計画は実現に向かっているのか?開発途上国からの最新情報を記述します。
■アフリカ・アジア諸国の女性たちが抱える諸問題― 因習・貧困・宗教的圧力による「児童婚」
18歳未満の子どもが強制的に結婚させられる「児童婚」が、現在もアフリカ、アジアの広範囲で行われています。女子は学校で学ぶ機会を奪われ、労働や性交、出産を強要され、望まない妊娠・出産に従わざるを得ない状況にあるのです。
ケニアの首都ナイロビから北方に車で約8時間。牧畜民族サンブル族が住むマララル村のクリスチャン・ナシャキさん(15)は、12歳の時、結婚させられた。相手は62歳だった。「父親より年上なので、嫌で、吐きそうになった」。結婚後は学校に通わせてもらえず、家事に従事させられました。1日3回、20リットルの容器を抱え、5キロ離れた小川まで水くみに行かされたといいます。
ユニス・ナイセニャさん(16)は、父親の命令で結婚させられた。「学校に通いたい」と反発したが、許されなかった。「夫」からは、性交を拒むたびにムチで打たれるそうです。
同じくマララル村で9歳の娘を結婚させた母親は、「牛と持参金を受け取ったため、夫が決めた。伝統なので反対できなかった」「伝統に逆らうと、私が集落から追放されてしまう」と。
サムラ・ララキンピン村長(36)は、「この地域の女子の初等学校進学率は2割。多くの村民が『女子に教育は要らない』と信じている」と言います。
ユニセフ(国際児童基金)は、「世界では7億人以上の女性が18歳未満で結婚している。特にアフリカでは、今後、人口の激増が予想され、児童婚の数は現在の1億2,500万人から、2050年には3億1,000万人に増える可能性がある」と報告。
国連は国際家族計画連盟(IPPF)と連携して2030年までに取り組む「持続可能な開発目標」として「児童婚などの有害な習慣を撤廃する」との目標を掲げました。が、自宅から学校までが遠く、女児を学校に歩いて通わせるのは危険だとして、親が児童婚を強制するケースも多く、改善はなかなか進まないのが現実です。