北沢杏子のWeb連載
第160回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年6月 |
国際人口会議の行動計画 「性と生殖に関する健康/権利」
女のからだは守られているか?―途上国では― そのU
■モザンビーク共和国―女性の低識字率と高い出生率
モザンビークの女性たちは平均して5人の子どもを、農村部に住む女性は7人の子どもを産んでいます。女性自身は「3人まで」を希望しているのですが、「女の子は就学させない」習慣が根強く残っており、そのため女性の識字率が低く、それに伴って経済的・社会的地位が低いことが、高出生率の大きな原因になっているのです。
モザンビークでは、女性がものごとを決定することはできません。子どもを何人産むか、いつ産むかについての選択になると、まったく決定権がない。2009年に、“家庭内暴力(DV)を犯罪とする法律”が施行されたものの、女性が「避妊を主張」したり、相手に「コンドームの使用」を頼んだりすると、必ずDVが起こるとか。
女性自身も多くが、「自分が殴られても仕方がない」と考えており、モザンビークでは女性の3人に1人以上が、“夕食を焦がした”とか、夫が外出する際に“「いってらっしゃい」と言わなかった”という理由で殴られても仕方がないと思っています。
このような家庭内暴力を容認する女性は、都市部より農村部では一般的であり、その原因は、農村女性の低い就学率にあることもわかってきました。
加えて、「一夫多妻制」(1人の夫に4人の妻まで容認)が公認されており、「大家族は富の象徴」といった伝統的な家父長制の因習が、出生数の増大に拍車をかけてているのです。
その結果、貧困、食糧不足、疾病が、女性と子どもを苦しめています。子どもを例に挙げると、モザンビーク全土で、子どもの44%が慢性的に栄養不良状態にあると発表されています。
つまり「女子・女性に教育は必要ない」という、男性優位社会の偏見、因習、一部の宗教的価値観他によって、世界の人口は今後も激増。女児の不就学、貧困率は拡大の一途を辿るでしょう。
■すべての女子に教育を!
そこに現れたのが、2014年10月10日、最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)でした。彼女は受賞の席上、「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンが世界を変える。教育こそが、ただひとつの解決策です。教育を第一に!」と訴えています。
2012年10月9日、パキスタンのスワート地区に住んでいたマララさんは下校のスクールバスの中で、女子が教育を受けることに反対するタリバンの男から頭を銃撃され、生死の境をさまよった少女です。
彼女の訴えは、世界中の女子が教育を受け、識字率を上げることによって、あらゆる因習、貧困、宗教的抑圧から解放され、さらに雇用につながり、経済的に独立した女性として、「性と生殖に関する健康と権利が保障される」という、カイロ・国際人口会議宣言の趣旨そのものでした!
■中国の徹底した「一人っ子政策」を取材して―
1979年から1999年にかけての20年間、私は取材や講演で幾度も中国に行く機会がありました。最初に行った1979年当時、10億人の人口をかかえた中国では、20世紀末の人口を12億人に抑えるという目標を掲げ、「晩婚(男性27歳以上、女性25歳以上)、晩育(子育て年齢を遅くする)、夫婦1組に子ども1人だけ」という厳しい人口抑制法(法律)を打ち出しました。
年々、経済的発展を遂げ、いまや、米国に次ぐ経済大国にのしあがろうという現在と違って、当時の想像を絶する住宅事情の悪さの中で、若いカップルは夜の公園などで辛抱強くデートを重ねながら、法的に許可される結婚年齢まで待たなければなりませんでした。
■「子産みキップ」の配布から強制中絶まで
更に驚かされたのは、子どもを産みたい夫婦は、計画出産当局発行の「生育指標」という名の「子産みキップ」の配布を受ける必要があり、その申請書には、職場での勤務成績、住居の有無、夫婦関係良好との第三者の証言まで必要。しかも子産みキップを取得した後、1年以内に妊娠しなかった場合は返済しなければならない規定があるのです。というのも、その期間に妊娠しなかった女性は、この子産みキップの抽選を待つ長蛇の列の「子どもを産みたい女性たち」に、その権利を譲らなければならないからなんですね。
■中国、「二人っ子政策」に―
この強制的な一人っ子政策の結果、中国でも先進国と同様に少子高齢化が進んだため、政府は2014年から、「両親のどちらかが一人っ子だった場合のみ、子どもを2人まで産んでもよい」という政策の転換を余儀なくされ、公表しました。
ところが“一人っ子”に馴れた、特に都会の女性たちは「二人産むつもりはない。一人でたくさん」と断言しています。