北沢杏子のWeb連載
第161回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年7月 |
国際人口会議の行動計画 「性と生殖に関する健康/権利」
女のからだは守られているか?―途上国では― そのV
ではつぎに、先進国の女性の社会への進出、晩婚、高齢妊娠・出産、そして「生殖補助医療」の過激化について記述しましょう。
■日本――減り続ける人口・少子高齢化社会
安倍内閣はいま、「一億総活躍社会」と銘打って、「希望出生率1.8人の実現」に躍起になっています。現在の日本の総人口は1億2708万3000人※1。少子高齢化で、現在、1人の女性が産む子どもの数は1.42人※2。日本に限らず、それぞれの国にとっての望ましい人口が、増加も減少もしない均衡した状態を続けるための「人口置換水準(Replacement level fertility)は、女性1人当たりの出産数2.1人です。これに対して日本は1.42人ですから、日本の人口は、このままいけば50年後には、現在の2/3に当たる8,440万人に落ち込むだろうと推計されています。そこで、少子化対策を担当する内閣府が文部科学省と連携して作成し、配布したのが、左の高校1年生「保健」の副教材『健康な生活を送るために(A4判 45ページ)』でした。
■全国の高校1年生「保健」の副教材を配布
2015年8月下旬から、全国の公・私立高校に130万部配布されたその副教材には、“妊娠しやすい年齢や不妊に関する内容”について、「医学的に、女性にとって妊娠に適した時期は20代であり、30代から徐々に妊娠する力が下がり始め、一般に、40歳を過ぎると妊娠は難しくなる」と記載されており、教育現場では「なにごとか?」と疑問に思う教職員も少なくなかったようです。
だが、その内幕は、すぐにばれた! 配布から1ヵ月半後の10月7日、第三次安倍内閣成立と同時に、新内閣の目玉として打ち出したのが、アベノミクス第2ステージ「一億総活躍社会」の第2番目の矢『希望出生率1.8人の実現』だったのですね。
■高校生に刷り込む「出生率1.8人!」
ところで、配布された副教材を点検すると、「安心して子どもを産み育てられる社会に向けて」の“健やかな妊娠・出産のために”のページには、“妊娠しやすい年齢による変化”のタイトルで、「22歳で産めよ!」といわんばかりのグラフ@(右上)が掲載されていた。これに対し、9月11日(2015年)、有識者らによる「高校生にウソを教えるな!―高校保健・副教材の使用中止・回収を求める緊急集会―」が開かれ、教育現場からも、どっと批判の声が挙がりました。
文科省は慌てて、すぐに正誤表(差し替え後のグラフA)を出しましたが、訂正後も、まだ問題があることが指摘されたものの、文科省・少子化対策担当相は、「訂正グラフは適切」と公言し、そのまま副教材として使われています。
■高校生よ、内閣府の副教材に洗脳されるな!
その主張が正しいかどうか、左のグラフに注目しましょう。
@が、8月末に全国の高校に配布された“22歳で産みなさいよ”といわんばかりのグラフです。
Aが差し替え後のグラフで、“22歳から26歳までが妊娠しやすい”となっています。
Bを見てください。これが、原典となったWood「Fecundity and natural fertility in humans※」のグラフです。@ A Bを比較すれば、文科省が全国の高校に配布したグラフは、誰が見ても、「希望出生率1.8人」の実現を目指す、みえみえの改ざんとわかるでしょう。
2016年1月11日(成人の日)に、東京ディズニーランドで開かれた成人式で、浦安市長は、新成人1,400人を前にして「出産適齢期は18歳から26歳を指すそうだ」「若いみなさんに、大いに期待したい」「人口減少のままでは、日本の地域社会は成り立たない」などと述べています。
過去にも、(日本の15年にわたる侵略戦争のとき)、戦争に送り込む兵士が必要だとして「産めよ、増やせよ、国のため!」との国策が声高に叫ばれた時代があったのですよ。高校生たちに忠告したい。「内閣府の副教材に洗脳されるな」。産む・産まないは、あなた自身が決めることなのだから!
日本の内閣府が、どうしても出生率を上げたいなら「男女雇用機会均等法」にある、男女間の職種・賃金の平等、有給の出産・育児休業の徹底、保育所への待機児ゼロ、子ども手当ての充実、小・中・高校の教育費の無償など、多くの課題を、国は早急にクリアしていく必要があります。こうした子育て福祉サービスを実現してから、「さあ、1.8人産んでください」と国が言わない限り、日本の人口は減少の一途を辿るに違いありません。※1 総務省統計局「人口推計」
※2 国立社会保障・人口問題研究所の調査によると1.44人に微増
(2017年4月10日発表)。30代40代の出産が増えたため、とある。