北沢杏子のWeb連載
第162回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年8月 |
国際人口会議の行動計画 「性と生殖に関する健康/権利」
女のからだは守られているか?―先進国では― そのW
■極端なM字型―日本の女性労働力率
去る2014年4月9日、経済協力開発機構(OECD)のシンポジウムが東京で開かれました。その席上、OECD事務総長のアンヘルさんは、日本の女性の働き方の問題点を指摘。
日本の女性は、@労働参加率が低い。A賃金が、男性に比べて27%低い。B非正規雇用者の70%以上が女性。C労働環境―残業、休日出勤、地方転勤制度など―が、男性に有利になるように設定されている。
「しかも、育児ばかりか高齢家族の介護も女性の肩にかかっており、女性の60%が第一子誕生と同時に退職に追いこまれている」「教育レベルは、女性のほうが男性より高いのに、日本の企業は、そのキャリアチャンスに投資しようとしない」と、企業に対しても厳しい批判を浴びせました。
指摘されるまでもなく、日本の女性労働力率は極端なM字型。つまり、出産と共に退職し、子育てに手がかからなくなった時点で再就職するというのが一般的です。これでは非正規雇用に応ずる他はなく、キャリアも積めず、不本意なパートに甘んじるより他はありません。ここで、女性の労働市場でのジェンダーの平等も、子産み子育ての社会保障も充実しているにもかかわらず、高齢出産を選ぶ女性たちの国、フィンランドをみてみましょう。
■フィンランドの高齢出産、妊孕力低下による生殖医療に!
フィンランドの女性の労働市場参加率は男性とほぼ同等で、働く女性にとって「子育て支援制度は女の権利」と考えられています。ヘルシンキでは、すべての子どもが1日5時間の保育を無条件で受ける権利があり、この他に全日保育、夜間保育、週末保育、24時間保育サービスが所得に応じて有料で受けられ、親は保育サービスの種類を選ぶことができます。
さらに、すべての母親が105日間の出産有給休業を取る権利を持ち、復帰後は元の職場で同じ仕事、または同レベルの類似の仕事に戻る権利をもっているのです。父親には18日間の産休と12日間の有給育児休業(パパの1ヵ月)を取ることが義務づけられており、この有給休業を取らなかった場合は、「罰則」まで、もうけられているという徹底ぶりです。
こうした恵まれた子育て社会保障制度の結果、女性1人の出生率は1.85人と、人口維持のための人口置換水準2.1人よりも低いとはいえ、まあまあといったところです。
フィンランド家族連盟のアンネ・ミーティネンさんは「私たちは、国家のために人口を安定させる責務を負っており、現在の出生率は1.85人で、やや安心している。ただ心配なことは、第1子の出産年齢が高くなっていること―女性が家庭を持つ、あるいは持とうと考え始めた頃は、既に若くなく、妊孕力(生殖能力)という意味では、35歳を過ぎると遅いのです。
なのに、フィンランドでは子どもを産み始めるのが平均37歳。35歳以上の女性は妊娠しにくくなることは承知していても、キャリアの向上に重点を置く結果、現在、生殖医療―体外受精に頼る女性が増えている始末」と嘆息しています。
■スウェーデン―世界初の「移植子宮」で出産!
生殖医療といえば2014年10月3日、「子宮移植を受けたスウェーデンの女性(36)が男児を出産」と、同国イェーテボリ大学のチームが、英医学誌“ランセット”に発表しました。
移植を受けた女性は、卵巣はあるものの、生まれつき子宮がなかったため、2013年、閉経した知人女性から提供された子宮を移植。自身の卵子と夫の精子を体外受精させた受精卵を、移植した子宮に戻して妊娠に成功。翌年9月に出産し、母子とも健康で、すでに退院しているとか。
■提供卵子で、日本初の出産
2017年3月22日、NPO法人「OD―NET」は、第三者から無償で提供された卵子への体外受精で、女児が国内で初めて誕生!と発表しました。出産したのは早期閉経※の40代女性。2015年に日本産婦人科学会(以下 日産婦)指定の医療機関が、提供者(匿名)から23個の卵子を採取。夫の精子との体外受精を行い、受精胚に成長した11個を凍結。融解した1個を妻の子宮に移植しました。1度目は流産したものの、2度目の2016年4月に妊娠し、翌年の1月に無事出産。日本初の、第三者の卵子ベビーの誕生です。
■子どもの「出自」を知る権利を規定
この夫婦に対し、日産婦は、子どもの出自(アイデンティティ)を知る権利を保障する規定を提出しました。
@ 子どもには、3〜5歳ごろには卵子提供の事実を伝え、15歳以上になったころ、本人が希望すれば、卵子提供者の氏名、連絡先などが、出産にかかわった医療機関から渡されること―これに対し夫婦は同意。A 子どもが卵子提供者との面接を希望した場合には、上記医療機関が調整する―に対しても、卵子提供者は同意しています。もちろん、強制力はなく、最終的には、当事者(子ども)の判断に委ねられることになるとのことです。
このように、あっという間に先鋭化されていく生殖医療!次は、どんな生殖医療技術が現われるでしょうか?