北沢杏子のWeb連載

164回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年10月

 

FGM(Female Genital Mutilation/女子性器切除)を時系列で追う 

そのT

■はじめに―
 本稿は、高知県立N高校2年生の研究班「グローバル研究」のグループが、アフリカのFGM「女子性器切除」について私に質問してきたところから執筆に取りかかったという経緯がある。
 私は現在、自社アーニ出版1階のアーニホールで、医大・医学部・看護学科の要請により、12校・年間500名の学生対象「性に関する時事問題」10項目の講座を行っているが、FGM問題は、学生要望のテーマに上ってきたことがなかった。というわけで今回、女子高校生の質問に応じるべく記述を開始した次第。
 資料は『ドキュメント 女子割礼』内海夏子著(集英社新書 2004年1月25日 第2版)を主とし、その他のこまごました資料を参考にしたことをお断りしておく。

■性器切除の種類と切除の方法
 FGMには、クリトリスだけを切り取る@陰核切除、クリトリスと小陰唇を切除するA陰唇切除、更に大陰唇を切り取り、縫いあわせて閉じてしまうB陰部閉鎖がある。
 学校が長い休みに入ると、FGMの季節だ。なぜかというと、特にBの陰部閉鎖をされた少女たちは、術後7日間は脚を縛られたまま横になっていなければならず、その後の回復にも時間がかかる。故に、夏休みが始まる5〜6月がシーズンだ。

 性器切除の方法は、上記@では、カミソリでクリトリスの先端を切り取るだけだが、Aはカミソリでクリトリス全体を、そして小陰唇の黒い部分を削ぎ落とす。Bに至っては、更に大陰唇に切り込みを入れ、両側の切り口をあわせて、アカシアの木の長く尖ったトゲ(2〜3cm)を、左右から3〜4ヵ所に刺して閉じる。その後、傷口にミッラ(穀物の一種)を砕いたものと砂糖を練りあわせた糊状の接着剤をたっぷり塗る。1週間後、それが固まって傷口がしっかり固定するという。
 私(北沢杏子)がアフリカで見た映像では、肛門に近いところに直径1〜1.5cmくらいの棒を押し込んで、その部分はふさがらないようにして閉じ合わせ、尿や月経血の流れ出す口にするということだった。

■女子性器切除の分布と施術者
 この因襲は、現在もアフリカ26カ国で行われている※。国連機関の発表によれば、現在、世界で1億4,000万人以上の女子・女性がすでに切除をすませており、毎年200万人の少女の切除が行われているという。
 性器切除の施術者は、かつては割礼専門職の女性、産婆、床屋などによって行われていたが、現在は、医師や看護師など医療関係者への依頼が激増している。とは言っても、山奥の未開地では医療機関がなく、かつてどおりの施術者によっていると思われる。いずれの場合も、切除者は報酬を得ることができる。

■性器切除の心身への影響
 性器切除による心身への後遺症は、結婚生活や出産など、生涯にわたって重くのしかかる。心身へのダメージが特に深刻なのは、タイプBの陰部封鎖だ。陰部封鎖で縫いつけられた大陰唇で尿道口が覆われているため、肛門近くにあけられた直径1〜1.5cmの穴から排尿するには長時間かかる。そのため、失禁や、さらに、腟口から出される月経血が内部にたまって、下腹部がはれ上がるなど、月経困難症に陥ることも少なくない。その他貧血、腎障害、傷跡による難産、性交時の激痛、性行為への恐怖、うつ病など、生涯にわたる女性の心身への害は、数えればきりがない。まさに残虐な因襲である。(次号につづく)


※1 モーリタニア 、2 セネガル、3 ギニアビサウ、4 マリ、5 ギニア、
6 シエラレオネ、7 リベリア、8 ブルキナファソ 、9 コートジボワール、
10 ガーナ、11 トーゴ、12 ベナン、13 ニジェール 、14 ナイジェリア、
15 チャド 、16 カメルーン 、17 中央アフリカ、18 コンゴ、19 エジプト、
20 スーダン、21 ウガンダ、22 タンザニア、23 エリトリア、
24 エチオピア、25 ケニア、26 ソマリア

 

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