北沢杏子のWeb連載

165回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年11月

 

FGM(Female Genital Mutilation/女子性器切除)を時系列で追う 

そのU

■「性器切除」はいつ、どこで、何が目的で行われてきたのか?
 女子の性器切除は、エジプトのメンフィスから出土した紀元前16世紀のミイラに、タイプAの「性器切除の痕が見られた」という考古学者の発表があったが、真偽のほどは定かではない。では、性器切除の目的は何だったのか?それは「男性上位社会」の、女性はモノ扱いの習慣が原因だと思う。
@女性に性的快感をもたらすクリトリスを切り取ることで貞操を守らせる。A性器を縫いあわせ、結婚まで処女性を維持・証明することが目的等、他にもさまざまな説がある。

 シエラレオネやウガンダでは、現在も、成人への通過儀礼として、性器切除が行われている。この国の少女たちは性器切除によって、性的に抑制された受動的な女性になり、結婚まで処女性を保つことを誓う。この誓いの儀式によって、初めてコミュニティの一員として受け入れられるという因襲が、現在も通用しているのだ。
 残念ながら、男性に養われ、男性に依存して生きていかなければならない女性にとって、「結婚」は生きるための選択以外の何ものでもないのである。

■植民地にされたアフリカ―統治国政権下で禁止令が出る
 20世紀に入ると、西欧諸国の植民地下におかれたアフリカ各国に、統治国政府は女子性器切除の慣習を法律でやめさせようとした。まず1926年、ケニアでクリトリス切除のみにとどめるよう法令が、1946年、スーダンで外陰唇封鎖禁止の法令が、1959年、エジプトでは性器切除のすべてを禁じる法令が出された。しかし、現地人たちからは、それらが植民地支配の圧力だと反発され、効果が上がらなかったばかりか、現地の男性らによる反撃さえ起ったのだ。

■カイロ「国際人口開発会議」での「性と生殖に関する健康/権利(Reproductive Health and Rights)」宣言
 歴史に残る1994年の「国際人口開発会議」―この会議の画期的な成果文書が、「性と生殖に関する健康/権利」である。
 宣誓文は、「リプロダクティブ・ヘルスとは、人間の生殖システム、その機能と活動のすべてにおいて、身体的、精神的、社会的に完全に健康な状態にあることを指す」という、全く新しい概念を世界に向けて発信した。
@ 人々が安全で満ち足りた性生活を営むことができ、生殖力をもち、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由の権利を持つ。
A 男女とも、自ら選択した安全かつ効果的で、経済的にも無理がなく、受け入れやすい家族計画の方法、ならびに法に反しない出生調節の方法について知る権利を持つ。
B 以上の方法を利用する権利、および、女性が安全に妊娠・出産でき、またカップルが健康な子どもを持てる最善の機会を持ち、適切なヘルスケア・サービスを利用できる権利が含まれる―となっている。
 加えて、「思春期の若者に対する情報とサービス」は、
@ 思春期の若者が自分のセクシュアリティを理解し、望まない妊娠や性感染症、それに起因する不妊症の危険から自分を守るのを助けるため方策を実施する。それは、思春期の若者に利用可能な方策でなければならない。
A 女性の自己決定権を尊重すると同時にセクシュアリティと生殖に関する事柄について、“女性と責任を分担するという男性に対する教育”と結びついていなければならない、としたのだ。
 この「国際人口開発会議」の画期的な概念に触発されたアフリカの女性たちは、翌1995年、中国・北京で開催された「第4回世界女性会議」でFGM廃絶のための国際的支援を強く訴え、世界中の女性参加者の賛同を得たのだった。

■ジェンダーの視点から起ち上がった「FGMタスクフォース」
 この「世界女性会議」終了後、エジプトのマリー・アサードらは、NGO「FGMタスクフォース」を設立した。その主旨は、「たとえ性器切除がなくなっても、女性が抑圧されたままでは意味がない!女性が男性の隷属的地位から解放され、社会的地位向上を実現し、経済的自立ができる力をつけるエンパワーメントが伴わなければ!」、というものだった。
 こうして、FGM廃絶の共通の目標を掲げた「FGMタスクフォース」の幅広いフォーラムで、地域団体の活動家、各分野の専門家、政治家、メディア、各コミュニティのNGOが集まり、女性器切除を許してきた社会を改革する場へと発展していった。

 

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