北沢杏子のWeb連載

166回 私と性教育――なぜ?に答える 2017年12月

 

FGM(Female Genital Mutilation/女子性器切除)を時系列で追う 

そのV

■「FGMタスクフォース」の運動と成果
 この運動の焦点は、FGM廃絶をジェンダーの問題として、ウィメンズ・ディベロップメント(女性の教育、福祉、健康、社会的地位などを含む総合的な能力、意識開発)を解決しようとしたところにある。
 こうして、エジプトの小さな村の小・中学校でも、読み書き、計算の授業に加えて、有害な社会的慣習や、間違った長老の考え方、児童婚はもちろん、新妻が処女であった証拠に、初夜の血痕のついたシーツをベランダで掲げて村の人々に見せる儀式、寡婦に課せられた長期に渡る「喪」の因襲をなくすなどの内容も取り入れ、コミュニティの意識改革活動を積極的に進めていった。

■アフリカ・女性運動と欧米諸国のNGOとの連携
 1990年代後半に入ると、アフリカ女性運動の国際的パートナーシップが育ち、欧米のNGOとアフリカの女性たちが、同じジェンダーの視点に立脚した話しあいができるようになった。
 90年代後半におけるFGM廃絶運動のリーダー、ナヒッド・トウビアは、次のように語っている。
 「アフリカの女性が苦しんでいるのは、性器切除の傷ばかりではありません。女性は生活のすべての面で低い位置に置かれ、個人の権利を奪われて苦しんでいるのです」「北京・世界女性会議は、“女性器切除”が、基本的に女性の性の健康と権利を奪っていることを、世界に向かって明確にアピールしました」「私たちのゴールは、アフリカの総ての国の医療、立法、教育、人権の意識が拡大することによって、FGM廃絶に漕ぎつけることです。そのために、最も重要なのは、少女たちへの教育です!」と。

■「言葉による割礼(性器切除)」ンタニラ・ナ・ムカンボの普及
 「言葉による割礼」のリーダー、アニセッタ・キリガ(40)は、1989年から、ケニア・メール郡のMYWO※の副委員長として活動してきたが、1991年、ケニアで最初の女子性器切除調査を実施し、代替プログラム「言葉による割礼(ンタニラ・ナ・ムカンボ)を発案。1996年8月、初の「代替儀礼式」に漕ぎつけた。
 資料の著者、内海夏子氏が取材したのは、1999年12月に行われた、第3回目の義礼式だったが、その模様を記述しよう。

 ケニアの小さな村、タラカ村のカトリック教会敷地内の集会所には、28人の少女たちが5日間の研修会に参加していた。集会所の壁には、男女の身体の性的差異の図、性的機能の差の図などが貼られ、キリガ氏の指導のもと、ボランティアの教師、看護師らによる、性器切除をはじめとする有害な慣習、早すぎる10代の児童婚や、妊娠、出産の問題点、学校教育を受ける重要性、女性の地位・権利についての教育が行われる。
 こうした5日間の研修が終る最終日は、女性の成人を祝う日と名づけられ、少女たちは研修で学んだ性器切除廃絶の歌や、寸劇、詩などを披露して「私たちは絶対にFGMを受けない!」という決意を示すのだ。この終了式には、近隣の人びとやナイロビから来た報道陣ら120人が集まり、28人の少女たちの、自信に満ちた決意を祝福した。
終了証を受け取った少女たちは、贈られたTシャツの上から「卒業生」と書かれたたすきをかけ、誇りをもって報道陣の撮影に応じたのだった。
 ところが、これを横目で見ていた男たちは、「FGMをしていない女なんて、売春婦みたいなもんだ。俺は絶対、そんな女とは結婚しない!」と、地面に唾を吐いてみせるのだった。
 世界各地で紛争が起こり、難民が激増している現在、学校で教育を受ける機会に恵まれない少女たちの未来はどうなるのだろうか?写真にみる、希望に充ちた少女たちの姿を知るにつけ、不安は高まるばかりだ。

■マララ・ユスフザイさん※※の宣言「すべての女子に教育を」
 2014年10月10日、最年少でノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17 当時)は、受賞の席上、「1人の子ども、1人の教師、1冊の本、1本のペンが世界を変える。教育こそが、ただひとつの解決策です。教育を第一に!」と訴えている。
 2015年7月12日、マララさんはその信念を貫いて、ノーベル平和賞の賞金をもとに立ち上げたNGO「マララ基金」で、レバノンのシリア国境に近いベーカー高原に女子校を設立した。彼女はロイター通信のインタビューにこう答えている。「きょうは私の18歳の誕生日。大人になった最初の日です。世界の子どもたちを代表し、世界の指導者に対して、銃弾ではなく教育に投資することを求めます!」と。
 そう、世界中の発展途上国の女子に教育を!それが本稿のテーマFGM廃絶への解決につながる第一歩なのである!


※ 全国に300万人の会員をもち、1950年代からケニア女性の健康衛生、 福祉、女性の人生の選択肢を広げることを目標とする女性連合。

※※ パキスタンの女子校に通っていた2012年10月9日、「女子に教育はいらない」 とするタリバンの男から、頭を銃撃された。



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