北沢杏子のWeb連載
第167回 私と性教育――なぜ?に答える 2018年1月 |
FGM(Female Genital Mutilation/女子性器切除)を時系列で追う
そのW
本稿の「そのT」で、高知県立N高校2年生の研究班「グローバル研」のグループが、アフリカのFGM「女子性器切除」について、私に質問してきたことが、この小論文を書くきっかけとなった旨、記述した。以下は、高校生の質問への答である。
■高知県立N高校2年生の皆さんへ
皆さんが「グローバル研究」の授業で、世界で起こっている諸問題について調べ、“自分たちなりの解決法を考えてみよう”と取り組んでいるテーマが「女性性器切除」だと知り、驚くと同時に頼もしく思いました。皆さんのご要望に応えるべく、3日間というもの一歩も外に出ず書き上げたのが、「FGM(Female Genital Mutilation/女子性器切除)を時系列で追う」というこの論文になりました。では早速、質疑応答に入りましょう。
Q1. ガンビア、モーリタニア、インドネシアを中心に女性性器切除が行われており、私たちはその原因を文化的慣習と考えているのですが、北沢さんはどのようにお考えですか。
A. 「文化的慣習」ではなく「因襲」です。「女には教育はいらない」という国や社会は、世界中にまだまだたくさんあります。女の子は小学校3年生ぐらいで(親が)学校をやめさせ、水汲みや農作業、赤ん坊の世話などをしなければならない現実を、私はたくさん見てきました。そのため識字率が低く、本を読むこともできない。女性が男性に屈することなく、1994年のカイロ「国際人口開発会議」宣言にある「性と生殖に関する健康と権利(Reproductive Health and Rights)」を獲得し、自立して生きていくためには、何よりも教育の機会が与えられ、あらゆる社会の矛盾を看破する力を養うこと、そしてジェンダーの平等のために闘う意識と実行力を持つことだと、私は考えています。
Q2. 男性の割礼は、宗教が関係していると思われますか?
A. 男性の割礼は宗教的影響があるということです。ただ、HIV/AIDSについて、「割礼したペニスの方が感染率が低い(つまり、買春をした場合など、性交後、仮性包茎で包皮がペニスを包み込むことによって、HIVがとどまり、それが原因で発症(AIDS)するという説があり)「医学的見地からも割礼がよい」という現地の医師の意見もあるので、真偽のほどはわかりません。
Q3. 現地の方で、女性性器切除を実際に経験した女性にお話を聞かれたことがありますか?もしあれば、そのお話の内容を教えてください。
A. 直接聞いたことはありませんが、フランスの産婦人科の女医さんから、移民の若い女性が「近く結婚するので、陰部閉鎖してある腟口の部分を(夫のペニスが入りやすいように)、美しくカットしてほしい」と頼まれて困った、という話を聞きました。
資料『女子割礼―因習に呪縛される女性の性と人権』によると、スーダンのある女性は、性器切除を受けた過去と、現在のPTSDについて、こう語っています。
「私は5歳の時に封鎖されました。今でもその一部を覚えています。もの凄い痛さ、数週間も縛られたまま横になっていたことを。とても痛くて、泣いてばかりいました。どうしてこんなことをされるのか、わかりませんでした」。
「私が12歳になったある日、叔母さんたちが私を調べに来て、“閉じ具合が足りない”と、助産師のところへ私を連れて行きました。私は助けを求めて叫び、声を上げて逃げ出そうとしましたが、みんなで私を押さえつけ、口を覆ってしまったので悲鳴を上げることもできなかった。その時、そこで私は、また切られたのです。もの凄い痛さで、私は気を失ってしまいました」。
「私は病院で意識を回復しました。周りにいる女性たちが、うめき声をあげていました。私の両足は固定され、性器のまわりがふくれ上がって、ひどい痛さに苦しみました」。「私は、ただ死にたいと思った。私の母は、なぜ、こんなことを私にするのだろう。こんなにまでひどく私を傷つけるなんて……」。
「あれから何年か経ちました。最近、病院の医者から、『これまでの切除で、病原菌に感染しているため、子どもを産めない体になっている。治療の方法はない』と言われました。だから私は結婚できません。子どもを産めない女とは、誰も結婚してくれないのです。私は泣きながら、母や叔母にたずねます。“どうしてあんな恐ろしいことを、私にしたのですか”と」。
Q4. これからも(途上国の)人口が増えていくにつれて、女性性器切除の経験者が増えると思うのですが、北沢さんはどのようになっていくとお考えですか?
A. 現在、世界各地で闘争や弾圧が起き、難民が激増しています。難民の子どもたちは当然、学校に行けません。しかし、世界中の意識ある女性たちのFGM廃絶運動は拡大していく!と信じています。マララ・ユスフザイさんが国連平和大使に任命されたことも、そのシンボルではないでしょうか。さらに、あななたち高校2年生が、こうしたグローバルな問題に取り組んでいることを知って、ますます希望が見えてくる予感がしています。
Q5. 女性性器切除の問題について、北沢さんが一番有効だと思われる解決策を教えてください。
A. 国連人権委員会が「FGM廃絶」の法制定を討議し、国連加盟国のすべてが賛同して、“罰則あり”の具体的な実践の展開を望んでいます。繰返しますが、そのためにも、「世界中の女子に教育の機会を!」が、解決策の第一歩です!
その後、担当教諭からメールで「研究発表無事終了。現在は探究活動をまとめるリサーチペーパーを書いています」との報告がありました。