北沢杏子のWeb連載
第168回 私と性教育――なぜ?に答える 2018年2月 |
熊本市・慈恵病院「こうのとりのゆりかご」が
ドイツの「内密出産法」の導入を検討!
―そのT―
■「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」開設から10年
2017年12月16日、全国紙は一斉に「慈恵病院『内密出産法』導入・検討を正式に表明」と報道しました(「内密出産法」については後述します)。
2007年5月10日に運営を開始した「こうのとりのゆりかご」は、昨2017年5月10日で満10年になりました。この10年間に「ゆりかご」に預けられた赤ちゃんは何人だと思いますか?「ゆりかご」の利用状況を検証する専門委員会「ゆりかご検証会議※1」の発表によると計130人。1年に10人から15人の乳幼児が、ここに匿名で、または相談員に勧められて(実名や育てられない理由を明かした上で)預けられています。では、その130人の子どもたちの現状は?
同じく検証部会の発表では、特別養子縁組 47人、委託里親 26人、元の家庭に復帰 23人、乳児院/児童養護施設 28人、その他 6人となっています。初期に預けられた子どもは、もう、中学生(思春期)になっているとか。
「元の家庭に復帰 23人」という、初めて知ったこの発表には驚かされましたが、でも、よかったですね。もちろん、児童相談所の児童福祉士※2による精密な調査を経て、“復帰してもよい”と認められた家庭に戻したに違いありません。
ただ、例外として、引き取りにきた母親が、その日のうちに、“わが子を道連れに無理心中した”という悲惨な事件も報道されましたが……。
ともあれ、本稿は「元の家庭に復帰」と、子どもは思春期になると、自分の出自について悩むようになる―をキーワードに、子どもの出自を知る権利について記述していこうと思います。
■「ゆりかご」に預けた理由を探る―
「ゆりかご」検証委員会は、わが子を「ゆりかご」に預け入れた理由の聴き取り(複数回答)を、下のグラフのように発表しています。
検証委員会は、これらの事例から、
@若い世代の妊娠・出産に対する知識が不足しており、いのちを大切にする教育や性教育の更なる充実を計ること。
A男性自身が、妊娠・出産・育児の問題を自らの問題として自覚するための教育、啓発に力を入れること。
B福祉制度や公的窓口の積極的かつ継続的な関与が必要―と警告しました。
警告の中の、B望まない妊娠・出産に悩む女性に対して、公的窓口は、どんな対応をしているか?を探ってみると、
◆事例A:妊娠中は育てられると思っていたが収入がなく、児童相談所に相談したところ、「生活保護」を受けるよう言われた。生活保護相談に行ったが「受けられない」と言われ、「ゆりかご」に預けるしかないと、未婚の母親と父親が預け入れた。
◆事例B:未婚で妊娠し、中絶に10万円かかると聞き、できなかった。市の福祉課に相談すると、「母子生活支援施設」に行くように言われたが、空きがなく入れなかった。仕方なく、インターネットで「ゆりかご」を知り、預け入れた。
◆事例C:未婚で妊娠。最初は産む方向で相手と話していたが、「産むか・産まないか」でもめ、相手とも会わなくなった。自宅出産した1か月後、職場に復帰する前日に預け入れた。
◆事例D:妊娠し、同棲しようとしていた矢先に、相手が行方不明になった。一人では経済的に育てられない、また、戸籍にも載せたくないと、自宅出産し、インターネットでゆりかごを調べて預け入れた。
◆事例E:既婚で3人目の妊娠。夫に大反対され、また、生活が苦しく、これ以上は子どもを育てられないとの理由で、誰にも相談せず、自宅出産後に、新幹線を利用して預け入れた。
こうして、具体的な事情が分かってくると、日本の公的相談機関の窓口の連携がとれていない実情に驚かされますね。
絶望的な母親に対し、児童相談所→生活保護相談→母子支援施設とたらいまわしにするだけで、なんら保護の手を打っていない。
また、事例C・D・Eは、男性の無責任さを如実に現わしており、人権教育の必要性を痛感せざるをえません。
次号に続く
※1: 児童福祉専門家、弁護士、小児科医、児童精神科医ら6名で構成。定期的に討議し、 預け入れの分析、ゆりかご運営へのサポートおよび警告を行っている。
※2:児童専門のソーシャルワーカー