北沢杏子のWeb連載

171回 私と性教育――なぜ?に答える 2018年5

 

熊本市・慈恵病院「こうのとりのゆりかご」が
ドイツの「内密出産法」の導入を検討!  ―そのW―

■ドイツの『妊婦援助および内密出産法』とは―
 この法律の目的は、「医療施設以外での密かな出産をなくし、生まれた子どもの遺棄・殺傷を防止すること」となっています。
その条文は―
@全国に、匿名の妊婦援助テレホンサービスを設置。カウンセラーが無料で24時間対応する。
A妊娠を内密にしたい女性は、妊娠中も出産後も、全国1,600ヵ所の相談所でカウンセリングを受けることができる。
B葛藤状況にある妊婦は仮名で、助産施設(または助産師によるケアを受けながら自宅)で、出産することができる。
Cただし、女性はあらかじめ、実名を相談所に届け出なければならない。相談所は、女性の実名を厳封し、連邦上級官庁の「家族・市民社会局」に郵送。ここが保管する。
D子どもが16歳になった時点で、自身の出自(アイデンティティ・自己証明)を知る権利として、保管されている書類から、母親の実名を知ることができる。
Eこの「内密出産」の準備や産後期のケアに要する費用は(本人の法的な医療保険の額に応じて)、連邦側が支払う―と規定しています。
 ドイツの『内密出産法』が、仮名での出産を容認しながらも、(その条件として)事前に実名の届出を義務づけ、官庁が保管。子どもが16歳になった時点で、本人の「出自」を知る権利を保障する、と規定したことは、何よりも「子どもに最善の利益を!」を主旨とした『子どもの権利条約』に添った新しい法律といえましょう。

 「ゆりかご」検証会議は、これまで幾度も、「ゆりかご」に子どもを預けざるを得ない状況に追い込まれた母親と乳幼児のいのちを守るための具体的なシステムを検討する必要があるとして、ドイツの『妊婦援助および内密出産法』を、検討の対象のひとつとして挙げてきました。

■慈恵病院「内密出産法」導入検討を公表
 前述のように、2017年12月16日、慈恵病院副院長 蓮田健氏は、遂に「妊婦援助および内密出産法」の導入を検討していると正式に表明。その理由として、「“ゆりかご”を続けているうちに、自宅出産や孤立出産の問題が出てきた。母子とも危険!と思った」と述べています。確かに「ゆりかご」検証委員会の調査報告にも、
@女子高生が一人自室で苦しみながら産み、新生児のへその緒を、身近にあった鋏で切ったあと、失神した。
A男性が高速道路を長時間にわたって運転し、後部座席では妊婦が破水して、出産。新生児は胎盤をつけたまま、低体温状態で慈恵病院に辿り着き、母子共に入院した。
B生後間もない新生児を抱いて、飛行機や新幹線を利用し、やっと「ゆりかご」にたどり着いた―などの孤立出産は、この10年間に預けられた乳幼児130人のうち、半数近い62人にのぼった、とあります。
 運営開始日に合わせて始めた「24時間・妊娠電話相談」も、1年目の500件から、現在は6,000件超と激増しています。

■「内密出産法」導入について考えたいこと、懸念することは?
 ここで注目したいのは、ドイツの内密出産法の目的は、前述のように「医療施設以外での孤立出産・自宅出産をなくし、生まれた子どもの遺棄・殺傷を防止する」ことにある―つまり、「ゆりかご」のように、産んでから預けに行くのではなく、産む前に助産施設、または自宅の場合も、助産師のケアを受けながら出産する(内密出産法の条文 赤枠BCD参照)―そのあと「ベビークラッペ」に預け、養子縁組につなげるにしても、日本の事例のように、母子共に危険な(自宅や車中での)孤立出産だけは避けるべき、というのがドイツの考え方です。

 「内密出産法」導入・検討を公表した蓮田健副院長は、「相談できず孤立している妊婦は、これからも、なくなることはないだろう。匿名性を掲げて受診のハードルを下げ、母子双方のいのちを守りたい」と抱負を語りましたが、まだまだ問題は山積しています。

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