北沢杏子のWeb連載

172回 私と性教育――なぜ?に答える 2018年6

 

熊本市・慈恵病院「こうのとりのゆりかご」が
ドイツの「内密出産法」の導入を検討!  ―そのX―

ここで、10年間に「ゆりかご」に預けられた130人の子どもたちの現在を振り返ってみましょう。

■あかちゃんの戸籍をつくる―
 ここに預けられたあかちゃんは、「戸籍法」上「棄児」として申請されるため、「戸籍」をつくる必要があります。身元が判明しないあかちゃんの場合は、熊本市長が子どもの氏名、男女の別、出生推定の年月日および本籍を書き込みます。
 日本では戸籍法上、「出生届」には父母の名前および本籍が記載されていなければならないので、「ゆりかご」の扉には「扉を開ける前に、右側のインターフォンを鳴らして相談してください」と書いてあり、扉を開くと、「お母さんへ」と手書きで書かれた手紙が載せてあります。
 この手紙を手に取ると扉が開き、赤ちゃんを置いていくベッドが現れるという仕組みになっています。親が就籍に応じない場合は、「子どもの利益のために戸籍は必要不可欠」であると説得。預けられた日から20日、少なくとも3ヵ月の間に戸籍を作るために、「ゆりかご」関係機関は調査のため奔走します。

■特別養子縁組(47人)の問題点
 これは日本独特の「養子縁組制度」で、実の親の同意を得て、家庭裁判所が審判。子どもが欲しい夫婦の実子として戸籍に記載されます。これで実の親との関係は絶たれ、子どもは、自分の「出自」を知る権利を完全に失ってしまうのです。

■委託里親(26人)18歳まで養育―
 市の児童相談所を通して呼びかけ、条件を満たした夫婦に委託されます。養育里親には、都道府県から「委託費」が支給され、子どもたちは18歳まで、里親夫婦の普通の家庭で育つので、子どもの成育には理想的ですね。里親が養子として入籍を希望することも少なくないとか。この場合、戸籍上に実親との関係が残るため、子どもが「出自」に悩むことはなく、里親も事実を話すので、円満にいっているようです。


■元の家庭に復帰(23人)その後のフォローも必要―
 これも、「匿名」では、元の家庭に復帰できませんね。公開しない条件で、実名を聴き取った結果、実現したのです。ただ、子どもを引き取ったことで喜びを感じる一方、「一度は捨てた」という罪悪感が、母親をうつ状態に追いやるケースも見られ、児童相談所は、「その後も長期に渡るフォローが欠かせない」と訴えています。

■乳児院/児童養護施設(28人)―3,000人の子どもが入所
 「乳児院」は2歳まで、そのあと18歳まで「児童養護施設」で養育されます。現在、全国に乳児院は138施設あり、2,801人の乳児が、児童養護施設は615施設あり、26,449人の子どもたちが育っています。(厚生労働省 社会的養護の現状)

■「ゆりかご」の今後について、国に要望を述べたが……
 前述の「内密出産」制度導入の記者会見で、蓮田健副院長は、懸念すべき点として、子どもの戸籍登録や出産費用を誰が負担するのか?などを挙げました。会見に同席した蓮田太二理事長も、(母親の身元がわかった時点で、各自治体の長に)戸籍作成の依頼を行ってきたが、自治体ごとに判断が異なるため、挫折するケースが多く、「国による整備が必要」と訴えました。
 蓮田副院長は、「ゆりかご」運営の費用について、医療費(あかちゃんの検診他)が年間350万円、預け入れる親への対応および24時間相談(電話、面談)のための人件費が年間800万円、計1,150万円かかっている。この経費は、寄付と病院からの出費でまかなっているものの、「何とか国の補填につなぐことはできないだろうか?」と嘆息しました。
 さて、この問題、はたして国は乗ってくるでしょうか?安倍首相の反応は(2007年の発言ですが)「“ゆりかご”のようなことは、あってはならない、たいへん抵抗を感じる」と冷ややかでした。
 このどうしようもない現実に、「ゆりかご」検証委員会は、「国は逃げてきた!きちんと見解を示すべきだ」と指摘しています。 

 ここまで読んできて、どうでしたか?問題の根本的解決の方法について検証委員会は、中学校・高校の保健体育、家庭科の教科書の、妊娠・出産・子育て・児童福祉に関する記述を徹底し、男女共修で学ぶことをと主張しています。
 そう、予期せぬ妊娠・出産に悩むより前に、望まない妊娠をしない・させないという自覚が、男女共に必要です!


執筆者 北沢杏子

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