北沢杏子のWeb連載

180回 私と性教育――なぜ?に答える 2019年2月

 

うっかりすると見逃しがちの「憲法24条」改正(悪)案 そのT

■憲法9条改正(悪)案の紆余曲折―
 2019年1月22日、巨大与党を従える安倍政権は、本年度の運動方針を発表した。中でも安倍首相・意欲満々の憲法9条改正案は、昨年と比べ控え目だ、とメディアは報じている。
 昨2018年秋、党総裁選3選を果たし、自信たっぷりの安倍首相は、我々市民が希求してやまない不戦・平和を規定した憲法9条を含む、「改憲4項目※1」を明示。「政党の枠を超え、先頭に立って(9条の)憲法改正の実現を目指す」と謳ったが、今年度は「新しい時代に即した憲法改正に向けて道筋をつける覚悟」と、確かに、表現は後退したかのようにみえる。
 だが、1月28日に開幕した通常国会の施政方針演説では、「自らの手で自らを守る気概なき国を誰も(米国も)守ってくれるはずはない」「もはや、これまでの陸・海・空といった従来の枠組みだけでは、新たな脅威に立ち向かうことは不可能だ」「サイバーや宇宙といった領域で、我が国が優位性を保つ新たな防衛力の構築に向け、従来とは異なる速度で変革を推し進める」と、言葉巧みに憲法第9条1項の「日本国民は(略)武力による威嚇又は武力の行使は(略)永久にこれを放棄する」とは、正反対の施政方針を披歴している。

 この発言の背景には、(『ドキュメント日本会議』※2によると)2014年10月1日、日本会議※3が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」※4設立総会での、代表者の冒頭演説、「いよいよ憲法改正に向かって最後のスイッチが押される時がきた」「安倍内閣は、憲法改正の最終目標のために、我々の力で成立させた」に、あるようだ。「美しい国、日本……」は、安倍首相のおきまり発言だしね。
 ここで、「改憲」というと、とかく第9条1項・2項に注目が集まり、うっかりすると、私たちの最も身近な問題である「婚姻」と「家族」に関する憲法第24条改正(悪)案を見逃がしてしまいがちだ。なので、本稿のタイトル「私と性教育―なぜに答える」に焦点をあてて考えてみたい。

■憲法24条改正(悪)と「家族」のゆくえ―
 最近読了した、早川タダノリ編『まぼろしの日本的家族』※5の第7章『憲法24条改悪と「家族」のゆくえ』(弁護士 角田由紀子 著)を資料として、その問題点を探ってみよう。
 2012年4月22日、自民党政権が閣議決定した「日本国憲法草案」により、24条の「婚姻」「家族」に関する条文に、大きな変更が加えられた。この改憲の機運を進めるために、日本会議の「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、「戦後、GHQ※6が介入した憲法によって、日本の伝統的家族は破壊された」と宣伝した。
 「GHQによって制定された現・日本国憲法は、美しい日本にそぐわない」とは、安倍首相らがよく口にする文言だ。安倍首相は「任期中に改憲する!」と、度々、断言している。では、どう改憲しようとしているのか?

■24条の表題は「家族関係における個人の尊厳と両性の平等」
 先ずは憲法24条の現行法と改正草案を併記してみよう。
現行法 1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
 2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

改正草案 1項:(新設)家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
 2項:婚姻は、両性の合意に(現行法ののみを削除)基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
 3項:(現行法・冒頭の配偶者の選択を削除)家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権(現行法の住居の選択を削除)、相続並びに親族(現行法の家族を親族に変更)に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

■家族の絆が薄くなってきたから、家族を尊重せよ!
 新設1項は、個人の尊重ではなく家族尊重を規定している。改正に関する自民党のQ&Aを読むと、「家庭は社会の極めて重要な存在ですが、昨今、家族の絆が薄くなってきていると言われていることに鑑みて、24条1項に、家族の規定を置いたものです」と説明。
 2項ではさらに、現行法1項の「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し」ののみを削除している。一見小さな、しかし重大な改悪と言わねばならない。       
(次号に続く)

※1: 「9条への自衛隊明記」、「緊急事態条項創設」、「参院選『合区』解消」、   「教育の充実」
※2:藤生明 著 2017年5月10日 ちくま新書 刊
※3:1997年に設立された、日本の保守団体。会員は約3万8,000名。
※4:「憲法改正国民投票」の実現と、過半数の賛成による憲法改正の成立をめざして、全国で署名活動などを展開している団体。
※5:2018年8月22日 青弓社刊 
※6:連合国軍最高司令官総司令部 (General Headquarters, the Supreme Commander for the Allied Powers) 

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