北沢杏子のWeb連載
第181回 私と性教育――なぜ?に答える 2019年3月 |
うっかりすると見逃しがちの「憲法24条」改正(悪)案 そのU
■憲法24条・安倍政権の改正草案の問題点
24条の改正案は、現憲法(2項)に新設が加えられ、3項となっている。では、新設の1項を再読してみよう。
改正草案1項:家族は社会の自然かつ基本的な単位として尊重される(前段)。家族は互いに助け合わなければならない(後段)。
新設第1項前段は、「個人の尊重」ではなく「家族の尊重」に重点を置いているのが特徴だ。現行憲法13条の「すべて国民は個人として尊重される」を明確に否定している。
続いて後段の「家族は互いに助け合わなければならない(相互扶助義務)」は、「生活保護制度」に大きく関与してくる。現行の厚労省「生活保護制度」案内には、「親族等から援助を受けることができる場合は、援助を受けること」。「その上で、世帯の収入が、(厚生労働大臣の定めた基準で計算される)最低生活費と比べ、収入が最低生活費に満たない場合に、保護が適用されます」、更に「扶養義務者の扶養は、生活保護法の保護に優先します」と念を押している。
つまり、家族の中の1人でも、(厚労相の定めた基準以上の)収入があれば、生活保護は受けられないことになる。
私の知人にも、高齢の母親の年金収入があるばかりに、心身障害のために就労できない娘が「生活保護」を受けられず、やむなく分かれて暮らさなければならないと“泣き別れ”している例がある。つまり、「福祉の後退」とも言える改悪草案と言えよう。
■家族の尊重は「暴力」を見えなくする!
資料・角田弁護士※1は、更に追及している。「家族の尊重は、共同体(パッケージ)としての家族を、国家が保護することで、個人の尊厳や両性の本質的平等(ジェンダー平等)の保障を後退させる。結果、家族の中での暴力を見えなくする」と。
ここでいう『暴力』とは、身体的・精神的・性的に他者を支配する力、DV※2を言う。夫の妻に対する暴力を日常的に見て育った子どもの脳は、どうなっているか?DVを目撃しながら育った子どもの脳の視覚野は、部分的に萎縮し、思い出すだけでも(PTSD※3)その部分が激しく変化するという※4。個人の尊重か、家族の尊重か、が問われるところだ。
■父親の「暴力」で、2人の少女が死亡した事件!
昨年、東京都目黒区で起きた父親の暴力による船戸結愛ちゃん(当時5歳)の死亡事件、今年に入ってからの、千葉県野田市で起きた、これも父親の暴力による栗原心愛さん(10歳、小4)の死亡事件も、個人の尊重ではなく、家族の尊重に軸足を移した24条改悪草案・1項の結果とも言えるだろう。
厚労省は、「子どもの命と安全を守る社会的使命として」、「すべての児童相談所※5に、弁護士、医師、保健師を配置することを検討」と発表した。検討事項例として、虐待が疑われた場合、@児相は保護者の同意なしに、子どもを一時保護する権限を持つ。Aその後は、子どもの心身の状態や家庭環境に応じて、家庭に戻すか、児童養護施設に入所させるかを決める―となっている。
小・中学校の性教育の授業や総合学習の時間に、家庭内暴力とは何か?および、子どもたちの居住地に近い児童相談所の住所、電話番号、メールアドレスなどを教え、教員も付き添って「相談窓口」に行くべきだろう。喫緊の課題だ!
■憲法24条 2項の改正草案の問題点
改正草案 2項:婚姻は、両性の合意(のみを削除)に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持しなければならない。
資料・角田由紀子弁護士は、のみの削除について、過去の家父長制時代の結婚は、当事者の幸せや愛情の問題ではなく、『家」の存続に不可欠なことであり、女性は『家』の存続のために男子を産む義務があった」「女性は『家』のために、自分の意思に反して『嫁にやられる』『嫁にもらわれる』ものであった」と述べている。
そういえば、最近読んだ新聞の投書欄に、高齢の親が息子に「福島の嫁はもらうな」とうるさく指示する、とあった。2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原発の事故で、放射線が拡散したことから、結婚して生まれてくる子どもに、何らかの障害が遺伝するかも、というのが理由だとか……。
ここにも、現行法24条2項の「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し」に違反した家族の過干渉が見てとれるだろう。
※1早川タダノリ編『まぼろしの日本的家族』(2018年8月22日 青弓社刊 )の
第7章 弁護士 角田由紀子 著『憲法24条改悪と「家族」のゆくえ』
※2 Domestic Violence(ドメスティックバイオレンス):近親者に暴力的な扱いを行う行為・ないしは暴力によって支配する行為。
※3 Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害。強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、こころのダメージとなって、時間がたってからも、その経験に対して強い恐怖を感じるもの。
※4 2010年2月、熊本大大学院の友田明美准教授と米国ハーバード大の研究チームによる発表。
※5 全国に212ヵ所ある。2017年度に全国の児相が受け付けた相談は47万件。うち「虐待相談」は3割を占めた。