北沢杏子のWeb連載
第184回 私と性教育――なぜ?に答える 2019年6月 |
「優生思想」を読み解く 日本の場合 ―そのT―
■相模原市・障害者施設の殺傷事件、来年1月8日に初公判
2017年7月26日、障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が殺害され、24人が重軽傷を負った殺傷事件。横浜地方裁判所(青沼潔裁判長)は、2019年2月24日、殺人罪などで起訴された元・やまゆり園職員 植松聖(29)の初公判(裁判員裁判)を2020年1月8日に開く、と公表した。初公判期日が9ヵ月も前に指定されるのは異例だという。
というのも、植松聖の「障害者は安楽死させたほうがよいのではないか?」「ヒトラーの優生思想が降りてきた」などの発言の報道から、あの惨事は、私たち市民の脳裏に、克明に残されているからだろう。
ここで、事件前後の情報を追ってみよう。
■「津久井やまゆり園」殺傷事件を追う
2016年7月26日午前1時40分頃、障害者施設「津久井やまゆり園」の近くに車を停めた植松 聖(当時26)は、東棟1階の窓ガラスを割って侵入。女性専用ルーム「はな」「にじ」で10人の女性入所者を、続いて男性専用のルーム「つばさ」で2人、2階に移動して「すばる」「いぶき」で7人の男性入所者、計19人を殺害し、施設職員5人を含む24人に重軽傷を負わせた。これが、相模原市・障害者施設「津久井やまゆり園」障害者殺傷事件である。
犯行の経路を見ると、植松は迷うことなく移動し、短時間で一挙に、死者19名、負傷者24名という犯行に及んでいることがわかる。というのも彼は、2012年12月から2016年2月までの3年余り、園を運営する「かながわ共同会」が雇用、この施設の職員として働いていたからだ。
各居住棟には指導員室があり(上図 )、夜勤の職員がいた。植松は、これを結束バンドで拘束し、刃物で脅しながら、恐怖におののく入所者を指しては「この人は話せるのか、話せないのか?」と聞く。職員が「話せます、障害の程度は軽いです」と答えたために救われた利用者は複数いたという。
捜査関係者らの報告により、彼は、障害の重い入所者から順に殺害する目的があったことが、実証された。
■大島理森衆議院議長への手紙―障害者殺害の予告―
事件の5ヵ月前の2016年2月15日、植松は東京・千代田区の、衆議院議長 大島理森氏の公邸前に現れ、警備関係者の前で土下座したあげく、議長宛の手紙を手渡して去った。その手紙は、下記のような、相模原事件を示唆する内容だった。
衆議院議長・大島理森様。
私は障害者(2施設)470名を抹殺することができます。常軌を逸する発言であることは、重々理解しております。しかし、保護者の疲れ切った表情、施設で働く職員の生気の欠けた瞳を見るにつけ、日本国と世界のためと思い、本日、このような行動に移した次第であります。(略)
私の目標は重複障害者の方が、家庭内での生活および社会的活動が極めて困難な場合、保護者の同意を得て「安楽死」できる世界です。障害者は不幸を作ることしかできません。(略)
障害者を殺すことで不幸を最大まで抑えることができます。今こそ革命を行い、全人類の為に必要不可決である辛い決断をする時だと考えます。(略)私が人類の為にできることを真剣に考えた答えでございます。
(略)どうか愛する日本国、全人類の為に、お力添え頂けないでしょうか。ぜひ、安倍晋三様のお耳に伝えて頂ければと思います。なにとぞ、よろしくお願い致します。
作戦内容(ですが)、職員の少ない夜勤に決行致します。重複障害者が多く在籍している2つの園を標的とします。見守り職員は“結束バンド”で身動きや外部との連絡をとれなくし(略)速やかに作戦を実行します。
2つの園260名を抹殺した後は、自首します。(略)逮捕後の監禁は最長で2年までとし、その後は自由な人生を送らせて下さい。心神喪失による無罪(として)。※
ご決断頂ければ、いつでも作戦を実行致します。 植松 聖
犯罪予告の手紙を受け取った大島理森衆議院議長は、事務方を通して「極めて残忍で許し難い行為」とコメント。
安倍首相も関係閣僚を集め、殺人行為を非難した。が、「障害者差別を許せない理由」については言及しなかったという。 次号へ続く※ 刑法39条 心神喪失時の犯罪は罪に問わない