第20回
私と性教育─なぜ?に答える |
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2005.10 発達障害者支援法──軽度発達障害児「特別支援教育」の問題点 性を語る会代表 北沢杏子 |
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上記の法律は、'04年末の国会で(超党派で)成立し、'05年4月1日、施行されました。この法律を推進した主な人々は、軽度発達障害児の親たちの会(本人9名、親88名、支援者26名)で、発達障害者支援法の成立を願う120人の当事者からの意見書の内容を要約すると── 社会の無理解と拒否的態度に苦しむ/早期発見・早期治療に繋げてほしい/しかるべき教育専門家を養成してほしい/後ろ盾としての法律がほしい/普通の子扱いの中で受ける不利益をわかってほしい/知的障害者のように行政支援の枠内に入れてほしい/法の成立で親亡き後の保障が確立されて安心して死ねる世の中になってほしい…といったもののようです(伝聞による)。 軽度発達障害とは、広汎性発達障害(知的発達遅滞のない高機能自閉症、アスペルガー症候群)、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、学習障害(LD)その他となっています。数年前から、よく耳にする名称ですが、上記の法律が施行されて、より頻繁に聞かれるようになりました。 私は去る8月、N県全県研究会、高校保健・性教育研究会の講師を務めましたが、その際、強く印象に残ったのは、普通高校の通常学級に在籍する軽度発達障害生徒への特別支援教育令(?)ともいえるものが、突如、下されて、右往左往する教師たちの困惑する姿でした。 この日は、資料として、あらかじめ県立各校(全日制高校70校、定時制・通信制・単位制高校14校、計84校)のアンケート調査の集計が配布されました。それによると、「発達障害と診断された生徒がいますか?」に対して、定時制の57.1%、全日制の34.3%が「いる」と答えています。「校内で配慮していることがありますか?」は、「はい」が71.9%。「保護者から配慮するように要望がありましたか?」は、34.4%が「はい」となっています。 この日、グループ討議のあとの発表があったのですが、ここでは特に「保護者や教職員間、中学校との連携の難しさ」についての報告を記してみます。 まず、保護者が本人の障害を極秘にし、しばしば本人にも伝えていない場合が少なくない/教職員も生徒のプライバシー保護という観点から、同じクラスの生徒たちにも伝えていない/担任の知識・意識が低く、攻撃的な態度をとる生徒に担任も攻撃的に対応している/中学校からの申し送り(本人の医療機関による診断、障害の種類など)が秘密文書扱いなので、教職員全員が知って対応することができない/「発達障害では?」と思われる生徒を、どのように本人、保護者に伝え、医療機関に繋げればよいのかわからない。また、早期発見・早期治療が行なわれないまま高校に入ってきて、突然キレたり、暴力的になって校内の物品破損行為に及んだり、パニックに陥って「殺してやる!」と叫んだため警察に通報、という事件に発展したこともあった…等々でした。 こういう事態に追い込まれることを二次障害というのだそうです。一次障害とは、「なんらかの中枢神経系の器質的・機能的な障害」を指し、二次障害とは周囲の無理解、拒否的態度、放置によって、心理的・行動的問題が発生することを指す、となっています。 討議後の発表の中で「いいなぁ」と感じた例がひとつありました。この生徒の母親は、幼児の頃すでに「なにかおかしい」と気づいて専門医療機関の診断を受け、小学校から高校まで、進学の度に学校にはもちろん、毎年4月には、クラスメートの前に立って、外見ではわからないわが子の器質的・機能的障害について説明。例えば、「髪に手をやるときは、不安なときなので、本人をよく理解してほしい」などと包み隠しなく話して、今日に至っているというのです。 さまざまな障害を持つ児童、生徒たちが、インクルーシブ(包括的)な教育の中で、苦しみを軽減していくために必要なのは、このお母さんのように、極秘にすることなく、理解と協力を求めていくことだと感じました。 冒頭に書いた「親が安心して死ねるために」というのは、あまりにわが子の障害を個人レベルで捕えているのではないか? いま、"三位一体”とかで、福祉と教育コストの削減をひたすら進める現政権の方針の渦中にあって、それを跳ね返し、障害児教育を豊かにしていくためには、保護者をはじめ、地方自治体・学校・教員の意識の変容こそ必要だと、痛切に思ったことでした。 |